エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第105話)

第105話:農業の規制緩和

 地方経済を活性化させるには、農業をはじめとした一次産業の発展が非常に重要である。しかし、これら一次産業は規制に守られてきたこともあり、成長どころか長く衰退し続けるまま放置されてきた。その結果、若い労働力が新規で参加しなくなってしまって久しく、日本では農業従事者の平均年齢が65歳以上になってしまっている。

 一方、海外に目を向けると、農業はオランダ、漁業はノルウェーなどで立派な成長産業として、若い優秀な労働力を惹きつける産業になっている。オランダという国は、国土面積も人口も九州と同程度の小さな国である。土地が平坦で耕作に向いているとはいえ、耕地面積は日本の4分の一ほどしかない。農業人口は40万人強で、300万人程度の日本と比べても7分の1と決して多くない。しかし、そのオランダの農産品の輸出額は年間8兆円で、アメリカについで世界で2番目の多さである。日本の農産品の輸出額は年間8000億円弱なので、オランダは実に日本の10倍以上の農産品を輸出していることになる。理由は非常に単純で、オランダでは高品質の農作物を安く世界に輸出できるように、農業にもITを駆使して、非常に効率の高い生産を行っているからである。

 日本の農作物に関して言うと、味や品質の評価は非常に高く、海外の富裕層の間では高い人気を誇っている。しかし一方で、生産効率が低く値段が高い上、輸出も自由にできないのが現状である。逆に言うと、農地を集約し効率を高めて、自由に輸出することができれば、日本の農業を成長産業に変える可能性は十分にある。

 日本の農業の効率化を進めるための機能が不十分といわれてきた農協に関しては、改革が進み始めてきたが、もうひとつの課題である「企業の農地所有の解禁」に関しては踏み込みが足りていない。一応、今の制度でも企業が農業に参入することも可能だが、例えば、取締役の一定割合を農業専業者にしなくてはいけない等の規制が多く、異業種の大企業は事実上参入できないようになっている。

 産業の変遷を振り返ってみると、日本は新しい会社が次々に生まれるアメリカのような国とは違い、一線で活躍している会社はそれなりの歴史を持った、いわゆる名門の大企業が殆どである。もちろん、新興の小売りやIT関連企業などでは社歴が比較的短い優良企業もあるが、それらはむしろ例外的な存在で、全体を見渡すとやはりいわゆる名門企業が幅をきかせている。

 これはある意味、日本独特の産業構造だが、この状況を加味して考えると、日本の農業が成長産業としてこれから大きな発展を果たしていくためには、これまでも一線を張ってきた大企業の農業参入が不可欠、かつ一番の早道だと思われる。

 しかし、そのためには、農地法の改正が不可欠である。2014年6月に発表されたアベノミクスの成長戦略には、企業の農地所有の解禁について「5年後に検討する」と先送りに近い書かれ方をされたが、農地法の改正は地方創生の観点から喫緊の課題というのが正直な感想である。早急に話を前に進めるべきなのは、改めて言うまでもないだろう。(第106話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第111話)

第111話:社会年齢は「八掛け」で考えて丁度いいのかもしれません。

 情報のやり取りが瞬時に行われる時代です。それだけに、今までは知らずに済んでいたことが、こちらから働きかけることなく、ある時は雑音のように飛び込んでくることがあります。何となく時の流れも今まで以上に早いように感じてしまい、歳を重ねるのも、少なくとも20年前に比べると、一段と早くなっているような感覚に陥ってしまいます。

 だからでしょうか、今まででは想定出来なかった年齢での出来事に出会うことが多くなったように感じます。何も社会的な犯罪にかかわることだけではありません。ビジネス空間での出来事や出会いです。

 少なくとも、この程度のことは、30歳にもなれば当然出来るだろう・・・ということが出来ない。この程度の知識であれば、既に20台半ばで知っているのが当たり前ではないか・・・と思って接していると知らない。幼い頃から、自分の頭と自分の言葉で、目の前に起きた現象や事象を説明する癖を付けてきたのだろうか、他者が準備したマニュアルに沿って、決められたルールに則った行動だけを繰り返してきたのではないかと疑ってしまいます。人はさまざまな思考をする生き物です。そして、自分なりの気付きを自分の知恵に転換できる能力を持つものです。どうやら、そのような考えも当てはまらなくなってきているのでしょうか。

 従前に比べれば、確かに社会の変化が早いと思います。昨日まで新しいと言われていたことが、今日既に過去のものとして紹介されることすらあります。変化が激しいと、現象に対する感覚が、逆に鈍くなるのかもしれません。どうやら、社会的年齢も少し割り引いて考えておかないと、過去の常識とかけ離れてしまいそうです。20年、30年前のビジネス常識から判断すれば、八掛けくらいで想定した方がよいのかも知れません。今の30歳は、かつての24歳。40歳は32歳。時の変化の早さが、逆に内面的知の進化を後追いさせているように感じることがあります。(第112話に続きます)

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 2016年11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第104話)

第104話:医療・介護の岩盤規制

 医療における岩盤規制としては、こちらも長く議論の俎上に上がっている混合診療の問題にケリをつけることが期待されている。

 混合診療というのは、保険適用の診療と保険適用外の診療を一箇所の病院で受けることである。現行の日本の制度では、仮に保険適用外の診療を受けると、その病院で受けた保険適用の診療まで、患者が全額自己負担しなくてはいけないことになっており、保険外の高度医療の普及の大きな妨げとなっている。

 しかし、歯科の世界では既に患者の希望により、保険適用外の治療を受けても、それ以外の保険適用の診療に関しては、患者負担が増えることはない。

 歯科では既にできていることが、その他の医療まで広がっていかない背景には、混合診療ができるようになってしまうと、病院間の診療レベルに格差ができてしまい、都市部の大きい病院にばかり患者が集まる一方、町の開業医の存続が危うくなることが指摘されている。

 具体的には、混合診療を解禁して、医者が自由競争になると、混合診療のできる都市部の設備の整ったところにだけ医者が集まってしまい、先進医療を実施している病院に患者が殺到し、迅速な診療も受けられなくなるとの指摘がある。

 ただ一方で、混合診療が解禁されれば最先端の治療が受けやすくなるという側面もあり、患者の立場から考えると複雑な判断にならざるをえない。

 しかし、何事にも共通して言えることだが、イノベーションを生み出すためには、ある程度のレベル以上の競争が不可欠で、医療においても例外ではないため、ある程度の規制緩和は進めざるをえないだろう。

 医療と同じように、介護も規制によって競争が阻害され、成長が押さえ込まれている分野だと言える。

 今、介護の世界は極端な二極化が進んでいる。飛行機の座席に例えればファーストクラスのような、いたれりつくせりのサービスを提供する高級施設がある一方、規制にしばられ、従業員の賃金を低く抑えざるをえず、最低限のサービスしか提供できない施設のどちらかしかない。

 利用者の立場からいうと、中間にあたるビジネスクラス的な施設もあればより多くの人のニーズに応えられるはずなのだが、残念ながら現在の規制の下ではそれもままならない。

 日本は既に人口が減少するステージに入っている中でも、60歳以上のシニアの人口は2040年代まで増加し続けると予測されている。つまり、増え続けるお年寄りをメインの顧客とする医療や介護は、日本では立派な成長分野なのである。今の規制は、そんな成長分野の需要を抑制しているだけであり、一刻も早い緩和がこれらの分野では求められるのである。(第105話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第103話)

第103話:雇用の岩盤規制は発破できるのか?

 日本の将来の成長を阻む大きな障害が、雇用、医療、農業におけるいわゆる岩盤規制である。

 「日本は成長の余地がせっかくあるのに、規制によって成長が押さえ込まれている」といわれて久しく、安倍政権にはこの岩盤規制に大きな穴をあける大胆な改革が期待される。

 まずは雇用だが、2014年に打ち出された成長戦略の中では、ホワイトカラーエグゼンプションが注目されてきたが、実は市場が最も注目しているのは、「正社員の解雇ルールの明確化」に安倍政権が踏み込めるかどうかである。

 特に外国人投資家の目には、日本の労働市場が流動化していないことが、日本経済発展の妨げの権化のように写っている。

 例えば、人口の減少が日本経済発展を妨げる諸悪の根源のひとつだが、そもそもその人口減少をもたらす最大の問題が労働市場の流動化が進んでいないことにあると考えられている。

 正社員の解雇ルールが明確化されていないことによって、日本企業はデフレの最中、若年労働者の雇用、特に正社員としての採用を必要以上に抑えてしまった。その結果、非正規労働者など経済的にゆとりのもてない若者層を大量に生み出すことになり、若年層世代の雇用・所得環境が著しく悪化してしまった。

 そのため、本来であれば結婚して家庭を持ち、子を産み育てるはずだった若年層に、経済的な余裕のない人が増えてしまい、少子化に拍車をかけてしまったと考えられている。

 現在の日本では、一度雇用した正社員は滅多やたらなことでは解雇することはできない。そのため、多くの企業では、景気の先行きが見通せない段階では、正社員を増やすことに二の足を踏む一方、雇用の調整弁として非正規雇用を増やして対応してきた。その結果、経済的にゆとりのもてない若者層が増えてしまったのは、残念な現実として存在する。

 そこで、例えば金銭を支払うことにより、企業側の都合で正社員が解雇できる仕組みができれば、企業が正社員の雇用に過度に慎重になることが避けられ、労働市場自体も流動化するという考えのもと、検討が進められている。

 日本人の場合、長く終身雇用が当たり前だと信じてきたため、企業都合で解雇されるということ自体にアレルギーを感じて抵抗する人も少なくないのだが、欧米では当たり前のことである。

 日本の企業もグローバルな競争に勝ち抜くことが求められている現在、雇用に関しても世界と同じレベルの効率性の高い雇用の仕組みが求められてしかるべきである。(第104話に続きます)

永濱 利廣 氏

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あなたのビジネススタイルは、どちらの「かえる」ですか?

第15回:マーケティングは「思考」と「試行」のバランス。

 現在は、未来が具体的に見えている時代環境ではありません。見えない未来に、目指すべき目標の旗を立てる時代です。
 そのような環境下にあって、マーケティング・スタッフに求められる姿勢は、考えた内容をまずは実行(試行)する行動力にあると指摘出来ます。
 実行し、結果を検証する。仮説設計と実行の繰り返しによる未来への行動計画立案が、現在の経営に求められているのです。挑戦する「心」と実行する「志」です。
 あなたは今、未来を目指して「動」いていますか?(第16回に続きます)

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 11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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