エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第94話)

第94話:経済指標(一次統計)の問題点

 景気の先行きについては一段と注目が集まっており、その判断材料となる経済指標の役割も高まっている。特に、家計調査や毎月勤労統計調査、法人企業統計季報は実態を捉えているのか、GDPの速報値はなぜここまでぶれるのか等、政策判断への影響が大きいため、これら経済統計の信頼性について関心が高まっており、内閣府の統計委員会でも改善に向けて検討が進められている。

 こうした中、一次統計で最も問題点が多いのが、総務省『家計調査』である。家計調査は、家計が購入した財・サービスに対する全ての支出を網羅していることに加え、調査世帯の収入や品目別の消費支出など詳細なデータを提供している。そのため利用価値が高く、消費動向を見る上でも重要な判断材料とされてきた。こうしたことから、GDP速報の民間最終消費支出の推計にも用いられているが、家計調査については従来から「消費の実態を反映していない」等の批判がある。この主たる原因としては、調査サンプルの少なさが挙げられる。

 具体的には、家計調査の調査対象のうち「二人以上の世帯」は全国で約3500 万世帯に達しているが、家計調査における調査世帯数の約8000 世帯は全世帯数の約0.02%にとどまっている。特に、自動車など購入頻度の少ない高額消費がサンプル世帯に集中した場合、全体の消費がかく乱される傾向があることや、定義の近い家計調査の実収入が毎月勤労統計の結果と大きく乖離することは、消費動向を把握する上で大きな問題点とされている。また、日々の詳細な支出内容にわたる調査であるため、報告者側の負担も大きく、調査に応じる世帯の偏りがあるとの指摘もある。更に、家計調査は単身世帯も調査対象としているが、単身世帯数が全国で約1300 万世帯に達しているのに対して、家計調査における調査世帯数は約750 世帯と全世帯数の約0.006%に過ぎず、精度面では二人以上世帯よりも大きな問題があるといえる。一方、近年では統計環境の悪化も指摘されている。女性の社会進出が進む中で、家計調査のように報告者負担が大きい調査に応じられるケースは大幅に減少していると思われ、こうした傾向が進めば統計の精度が更に低下する恐れもある。このように、統計調査環境の悪化が進む中にあっては、もはや家計調査は月次の景気指標としては限界があるものと考えられる。

 一方、厚生労働省『毎月勤労統計』の問題点としては、何と言ってもサンプル替えの問題により遡及改定幅が大きいことがある。特に現金給与総額では、サンプル替えに伴うギャップ修正により過去に遡って変化率が改定されることが、大きな問題点として指摘されている。他方、財務省『法人企業統計季報』における最大の問題点としては、資本金一億円未満の企業の抽出率が低く回答率にもばらつきがあることから、中堅・中小企業に関するデータが不安定であり、毎年四月のサンプル替えの際、調査結果に連続性が損なわれることである。こうしたことから、雇用者や人件費の変動を見ても、他の労働関連統計と連動しないことも指摘されている。(第95話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第106話)

第106話:未来を描き示す「ビジョン」は経営の原点です。

 80年代に注目を集めたビジネス書に「エクセレント・カンパニー」(トム・ピーターズ&ロバート・ウォーターマン)があります。成長しつづける超優良企業の条件を、国境を超えた調査・分析を踏まえて、そつのポイントを提示したものでした。そして90年代以降は「ビジョナリー・カンパニー」(ジム・コリンズ&ジェリー・I. ポラス)への注目です。企業永続の源泉は「基本理念」にあると示し、過去から将来に向けて変わることのない企業の基本哲学の重要性を説いたもので、企業のDNAや伝承すべき理念の重要性が、声高に言われるようになるきっかけにもなりました。

 今、日本企業に求められるのは、まさに今世紀ビジョンではないかと思います。将来の姿を具体的に描くものでなくとも、自分たちが進むべき方向を示したもの。その方向が明示されないままでは、自分自身が何をすべきか、どう振舞うべきかもはっきりしません。ちなみにわが国が進むべき道を示した国家的ビジョンは、今までに二つしかなかったと言われることがあります。一つは、明治時代の「富国強兵」。今ひとつは60年代の「所得倍増」です。

 ビジョンに求められる要件は幾つかあります。一つには「眼に見えやすいこと」。VisionはまさにVisual(視覚的)なものであり、将来像がはっきりした姿で示されているものです。二つには、実現可能であり且つ実現が待望されるものであること。絵空事のような言葉が浮ついたものでは、他者との共有化は難しくなります。そして三つにはコミュニケートしやすいことです。難解では、全員が何をすべきか、個々人が果たす役割が何かがわからなくなってしまいます。企業の方針は往々にして抽象度の高い言葉が並ぶ場合が多いものです。経営理念は自分たちの存在の状態を言葉で表明したものであり、日本企業の多くに「和」「誠」「努力」などの文字が並びます。今問われるのは、状態説明ではありません。未来への方向です。何をしたいのか?何を目指すのか?への解なのです。

 マーケティングは、市場構造の変化を自らの経営の中に取り込むことにあります。であるならば、将来方向を示唆したビジョンは、経営の意思表明であり、市場との対話の基点ともなる発言と捉えることが出来ると思います。_(第107話に続きます)

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 11月の九州生産性本部での授業風景
株式会社マップス 
代表取締役 清野 裕司

当ブログの寄稿記事を元に加筆編集しました新書が出ましたので是非お読みください。

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「清野裕司のマーケティング考 風を聴く」

今、経営に新たな思考力が求められています。市場にはどのような風が吹いているのでしょうか。風の音に耳を澄ませていると、次代に向けた風の通り道から、マーケティング思考で未来への道標が浮かんでくるかもしれません。それはまた、自分の心に吹く風の音を聴くことにも繋がるのではないか考えました。

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