エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第90話)

第90話:日本経済の懸念材料と中小企業の成功事例

 来年の春闘が、このままだと結構厳しい可能性があるとの見方がある。春闘の賃上げ率は、①前年の企業業績、②人手不足感、③物価上昇率に影響を受ける。特に物価上昇率が、大きな決定要因になっており、物価が上がっていれば、それだけ従業員の生活水準を維持するために賃上げの要請がしやすい、ということになる。実際の物価はこれまでの円高の影響で今期のインフレ率や業績はそこまで期待できない。労働需給だけは、失業率が3%まで下がって逼迫しているが、再度為替レートが円高に転じてしまえば、来年の賃上げ率が下がる可能性もある。

 一方、これまでのように消費が減り続けていくという局面は脱し始めてきている。従って、いかに個人消費の耐久財買い替えサイクルが持続している間に、円高がある程度是正されて、企業マインドが戻ってくるかというところにかかっている状況だといえる。

 こうした中、日銀短観によると、特に製造業で業況が良いと答える企業の割合を見ると、大企業よりも中小企業の方が多いことがわかる。これは、中小でも好業績を上げている企業が多いということを示している。

 こうした中小企業成功のトレンドには大きく二つある。一つ目がITの導入である。大企業はIT導入済で改善の余地は少ないが、中小企業はクラウドサービスを導入して業務効率化することにより、収益拡大に繋げる成功事例もある。

 二つ目が、特に中小企業であれば単独だとなかなか厳しい中で、企業間ネットワークを形成して、成功をしているというのが最近のトレンドである。例えば大阪のネジ卸の会社は、中小企業4社でネットワークを形成し、受注から出荷まで、部品の一貫生産を可能にし、完成部品を短期で納品できる仕組みを作って、事業化に成功している。

 また、イノベーションまで行かなくても、端的に販路開拓で成功しているケースも最近目立つ。ここには、①グローバル展開、②ITの有効活用、③デザイナーの有効活用、とポイントが三つある。

 大阪にある土鍋を作っている会社では、デザイナーと連携した新しいデザインの商品を開発して、フランスの見本市に出展して評価され、それがネットで広がり、他の海外や国内でもネット通販で販路獲得に成功している。デザイナーがポイントになっている背景としては、日本特有の文化風潮もあり、デザイン性や芸術性とか他には真似できないものがあるため、こうした部分をいかに有効活用できるかが勝負の分かれ目だと考えられる。

 最後に、日本でも地方に行けば地方に行くほど、人材不足や定着の問題があり、それに対する決定打はない。しかし、面白い取り組み事例もある。広島では、NPO法人や自治体や商工団体で組織し、中小企業間で人材のローテーションを行っている。人手の過不足を補完するだけではなく、様々な経験をさせて将来を担う人材を育成する取り組みであり、参考になるのではないだろうか。(第91話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
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mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第89話)

第89話:ようやく最悪期を脱しつつある日本経済

 日本経済の全体的な動向を見るという意味では、代表的な指標としてGDP、すなわち経済成長率等がある。最近の状況を見ると、日本経済は特に2015年からプラス成長になったりマイナス成長になったりと、一進一退を続けてきたが、2016年以降、ようやく3期連続でプラス成長になった。うるう年の特殊要因を加味すれば、若干だが3期連続で伸びが加速していることになる。

 内訳を見ると、個人消費が明確に回復とは言わないまでも、これまで続いてきた悪化が止まってきたと言える。その最大の要因は、耐久財である。

 この背景には、2009年度から2010年度にかけて、家電エコポイントやエコカー補助金等により家電や自動車販売の特需があったことがある。一方、内閣府の消費動向調査によれば、こうした耐久消費財の平均使用年数は7~9年程度である。このため、長年低迷していた車や家電等の耐久消費財の消費が買い替えサイクルの到来により増加している可能性がある。

 しかし、景気の先行きを規定するのは企業部門であるが、主に設備投資の数値が低迷していることがある。その最大の要因は、特に今年の年明け以降、急速に進んだ円高により、企業マインドが悪化し、設備投資に悪影響が及んでいる可能性がある。

 そのような中で、明るい材料としては、消費増税が先送りされた点である。この点については、少なくとも来年度の経済にはプラスに効いていくと考えられる。実際、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査を基に消費増税先送り前後の経済見通しに基づけば、消費増税が先送りされたことによって、GDPは4兆円程度恒常的に水準が高くなると計算される。

 もう一つは、事業規模28兆円の大型の景気対策である。実際に中身を見ると、国が実際に負担をする真水部分は7.5兆しかなく、今年度ベースでは5兆円強程度の真水の景気対策になるようである。それを踏まえると、今年度と来年度の経済成長率をそれぞれ+0.2ポイント程度、+0.3ポイント程度押し上げられる程度と予測される。中身を見ると、公共事業系のウエートが大きいため、建設関連には一部恩恵が行く可能性はあるが、表面上の数字ほど大きな効果は期待できないことには注意が必要だろう。

 一方、輸出の動向が大きく影響するのが、国内の生産活動であり、マクロ経済全体で見ると、増産に転じ始めている。鉱工業生産の生産計画まで入れると、在庫率が下がっていることもあり、秋口以降は明確な増産基調になっている。マクロ経済全体で生産調整が終了している状況を見ると、日本経済はようやく最悪期を脱しつつあると見ることが出来よう。(第90話に続きます)

永濱 利廣 氏

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第103話)

第103話:勉強するのは、時と場を選ぶものではありません。

 ここ数年、企業のマーケティング・スタッフの方々と一緒になって、ビジネス・テーマを考える場に参画したり、企業内のスタッフの前で話をさせて頂く機会が増えてきました。一方通行的なものではなく、お互いに会話をしながら知恵を熟成させ、新たな発想を求めるワークショップ・スタイルのプロジェクトです。そのような場でよく聞かれることがあります。「マーケティングについて、どこで勉強するのですか」との問いです。この類の質問が、最も答えに窮するものです。

 個人的に日々の見聞自体が勉強と心得ている者にとって、改めて「どこで・・・」と聞かれても、「普段の生活で・・・」と答える訳にもいかない状況です。なぜならば質問を投げかけた側は、他者の前でマーケティングを語るのであれば、当然、学校や先生から教えて貰う場面があるはずと思い込んでいる節があるからです。「普段の生活場面が勉強の場です」などと答えたのでは、会話が進まなくなってしまいそうです。そこで、「このような場で話し合って、お互いに啓発しあうことが勉強です」と答える。やや不満な顔に出逢います。

 しかし、勉強するとは「知らないことをわかるようにする」「自分なりの解釈をする」「学問を体系的に理解する」と、さまざまなレベルがあるもの。どの段階にあっても、さまざまなアプローチがあります。学校で一般的な学問体系を「習い」、何を考えるべきかを知るという方法。先人の残した知の集積を書物を読むことによって「辿り」、個々の意味を理解する方法。他者の考え方や理解の内容を会話を通じて「聴き」、自分なりの体系的な整理をする方法。そのどれをとっても勉強です。しかも、これらのことは日常生活で繰り返していることでもあるのです。

 勉強とは、一方的にある方法を「習う」ことではありません。自分自身の解釈やアプローチの仕方を「組み立てる」プロセスです。そのように考えると、「勉強する」ことが楽しくなります。「習う」ことだけの底の浅さが見えてきます。日常生活が勉強の場であることを教えてくれているのは、「我以外みな師」の想いではないかと思います。(第104話に続きます)

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清野氏 法政大学 講義風景

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

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マーケティング・スタッフに求められる力を考える。

第12回:マーケティング・スタッフが具備すべき力は主に5つある。

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マーケティング・スタッフに求められる力を考える。

 マーケティング・スタッフは「今」という時に身を置いて、今迄とこれからを考える立場にあります。過去をただ歴史物語として眺めるのではなく、今という時代を通過する背景としてみる見方も必要です。

 何となく身の回りに起きていることが、今迄とは違ってきたと感じることも必要でしょう。しかも、その変化は一部のものに過ぎないのか、あるいは未来に向けて大きな潮流になる可能性を秘めているのかを洞察することも求められます。

 そのように考えると、どこか難しいことを考えなければならないような印象があるかもしれませんが、難しいことを考えるのではなく、身近にある不思議を考える5つの力だと思います。(第13回に続きます)

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清野氏 法政大学 講義

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第88話)

第88話:来年は経済成長加速の期待

 今年の日本の経済成長率は1~3月期、4~6月期と2期連続のプラス成長であった。しかし、景気の方向性を決めるのは企業活動がメインであり、円高・株安の影響から4~6月期は外需と設備投資が芳しくなく、少なくとも今年前半は企業の心理が冷え込んでいたことがわかる。

 そんな中、明るい材料は個人消費である。小売販売額は底堅い。株価の底打ち効果も出ている可能性があり、財布の紐の堅さをみる「消費者態度指数」は改善傾向にある。公共投資も増えている。年明けには今年度2次補正予算の経済対策4.5兆円の効果も出てくるはずである。

 今年度の春闘賃上げ率はプラス圏を維持したが、伸びは鈍化した。今期の企業業績が悪化することや、生鮮食品を除く物価が下落していることからすれば、来年度はプラス幅が縮まる可能性が高い。一方で個人消費が堅調な背景には、自動車や家電などの耐久財がある。耐久財は2009~10年度にエコカー補助金や家電エコポイントを受けて好調だった。内閣府の消費動向調査によれば、家電や車の平均使用年数は7~9年であることからすれば、今は買い替え時期が到来しつつあるため、賃上げ率が鈍っても底堅い動きが続くとみる。

 消費税再増税の延期も来年度の景気に追い風になる。更に、政府は複数年にわたり28兆円の景気対策を予定し、対策は国内総生産(GDP)を今年度0.2%、来年度0.3%程度押し上げると試算されている。景気対策がない場合と比べ、来年度のGDPは累積で0.5%上がることになり、金額にして2.5兆円の押し上げ効果になる。

 9月以降の主要国の製造業景況指数は米国、ユーロ圏、日本、中国がいずれも改善している。製造業景況指数は最も先行するデータであり、来年にかけて海外経済が良くなると予測できる。輸出の回復力が弱かった要因は急激な円高にあるが、現在は円高是正の局面に入りつつあり、来年にかけて1ドル=110円程度まで円安に進む可能性もある。事実、鉱工業指数を見ると10~11月にかけて増産計画となっており、海外経済の持ち直しを反映していると推察される。

 米国は12月に利上げする可能性が高まっている。米国はGDPの70%以上が個人消費で、消費者信頼感指数、失業率がいずれも改善基調にある。12月に予定通り利上げが行われる状況になれば、円安ドル高が進むとみられる。現在の欧州経済の不安材料は個別の銀行が原因となっており、リーマン・ショック程の影響は想定しにくい。中国は景気対策と人民元の下落が効いており、最悪の状況を抜けだしつつある。

 こうした中、上振れシナリオとしては安倍首相が解散総選挙をすることである。長期安定政権となれば歴史的に景気が良くなりやすくなり、与党が勝てばマーケットは好感するだろう。更に解散総選挙となれば、3次補正で景気対策を実施する可能性があり、そうなれば来年度の成長率も1%を超えると期待できるだろう。(第89話に続きます)

永濱 利廣 氏

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