エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第81話)

第81話:将来必要な移民政策

 一般的には、アベノミクスが始まっても、賃金の上昇が不十分といわれている。しかし実は従前言われているよりも賃金は上がっているというデータがある。賃金統計としては、毎月勤労統計が一般的に注目され、これによれば、2015年における一般労働者の所定内給与は前年比+0.6%にとどまる。しかし、それよりもサンプル数の多い賃金構造基本統計調査によれば、一般労働者の所定内給与は前年比で+1.5%も伸びているということになる。従って、実は一般的な認識よりも、家計収入は増えていることになる。

 しかし、雇用者報酬が増えているにも関わらず、個人消費が増えていない。そして、雇用者報酬と個人消費のかい離が生じたきっかけが2014年4月の消費税率引き上げとなっている。一方で消費税率引き上げというのは、将来の社会保障の充実のために上げるため、非ケインズ効果的な考えに基づけば、消費が増えるという見方もある。しかし、実際は逆に個人消費が減ってしまっているということからすれば、社会保障の充実は必要だが、それだけでは消費は増えないということと示している。

 そうなると、なぜ家計や企業の財布の紐が緩まないかというと、マクロ的には個人消費にも設備投資にも関係してくることになるが、生産年齢人口が今後も減少を続け、国内のパイが縮小してしまうという漠然とした不安が大きいのではないかと考えられる。

 実際、日本の潜在成長率と生産年齢人口や人口ボーナス指数の変化率といった人口動態との関係を見ても非常に関連が深い。そして、将来の人口予測に基づけば、2020年代後半以降は日本の潜在成長率は非常に厳しい状況になることが予測される。従って、将来の漠然とした不安を緩和するには生産年齢人口の下落を抑え込まなければいけないことになる。 そうした意味では、現在、アベノミクスでは一億総活躍社会の実現に基づいた政策が打ち出されつつある。そして実際に、我が国では就業希望の非労働力人口が400万人以上存在し、失業者の2倍の規模となる。従って、こうした就業希望の非労働力人口が労働市場で活躍できる環境を整えれば、ある程度は潜在成長を維持する時間稼ぎができる。しかし、やはり根本的には人口を増やさないことには経済成長の維持は不可能と筆者は考えている。つまり、潜在的な消費、投資の拡大を持続させるために、将来的には移民政策が必要だと考えている。

 しかし、いきなり移民政策は難しいと思われるため、外国人留学生を大量に受け入れる取り組みの強化が将来の移民政策の突破口を開くと考えている。実際、日本政府は以前から留学生30万人計画という目標を掲げているが、日本の外国人留学生数は2015年時点で18万人にとどまっている。一方、オーストラリア等では外国人留学生の大量受け入れによる経済活性化に成功している。特にオーストラリアでは、地方に留学すると移住ビザの発給要件を緩和する等の優遇措置をすることで地方創生などにも貢献している。従って、日本でもこうしたところを参考に、外国人留学生の増加と将来的な移民政策といった方向にかじを切っていく必要があるのではないかと考えられる。(第82話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第99話)

第99話:無関心・無表情を「BUSU」と言います。

 いつからだろうか、この国に住む人たちが発する言葉が少なくなってしまったように思います。身の回りに起きていることに無関心になってしまった。そして、無表情になってしまいました。ほぼ毎朝のように、雑踏の中を決まった通勤路を行きますが、東京では、好むと好まざるとにかかわらず多くの人と接触してしまいます。大きな荷物を持つ時には、荷物同士がぶつかってしまうこともあります。その折の、お互いの振る舞い方が、自分の知る昔の光景と明らかに異なります。無言の状況が続く。ちょっと不愉快そうに顔をしかめる人もいますが、多くは無表情。

 何も好き好んで人にぶつかっているわけではありません。他者の荷物に悪意を持ってぶつけているわけでもありません。不可抗力のなせる業です。しかし、お互いが一瞬でもちょっと嫌な気分になっています。であれば「失礼しました」や「ごめんなさい」とお互いが声を発し合っても良さそうです。満員電車で目的の駅で降りようとする。ドアの周りには、その場所から何が何でも動こうとしない人がいます。ちょっとした動きで、人の流れは圧倒的に楽になるにもかかわらず、微動だにしません。摩訶不思議な光景です。

 他者やその時の状況を見ようとしません。無関心を装う人に多く出会います。自分さえ良ければ・・・の思いなのでしょうか。人は、人との関与によって初めて「人間」になる筈ですが、どうやらその考えがあてはまらなくなってしまったのでしょう。

 無思慮・無感情・無表情の人を「ぶす」と言います。感情の高ぶりや、心の動きは普通であれば表情に出ます。それが無い状況は、まさに動きの無い能面そのものです。能面も、その動きによって感情を知ることが出来るのですが、それすらもありません。

 気に掛ける範囲が狭くなったのでしょうか。そのようなことすら思わなくなってしまったのでしょうか。今、この国に「BUSU」が多くなってしまいました。前を向いて、次を信じて汗する国民性の喪失でしょうか。今朝も何人かの「BUSU」に出会った自分が、せめて「BUSU」にならぬようにと気にする時です。(第100話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

Eメール: maps@mapscom.co.jp

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