エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第83話)

第83話:人口減少は人手不足より「需要不足」が深刻

 前回指摘した通り、足元では円高による影響も避けられないが、インバウンドを取り込める業界にとって東京オリンピックはプラスの要素だろう。鉄道では「ななつ星」などの豪華列車が好調だったが、国内需要のみならず、インバウンドの取り込みも期待できる。ただし、長期的にみると国内は人口減少という足かせがあるので、国内の需要の減少をインバウンドで補う、というのがせいぜいだろう。

 こうした点で恩恵を受けることが期待できる業界を具体的に挙げれば、「建設・不動産」だろう。 東京オリンピックでも一定のインフラ整備が行われるし、熊本地震など、被災地にもインフラや住宅の需要がある。

 政策関連でも、給料に関わる幾つかの業界が挙げられる。まず1点は、「介護士」や「保育士」。慢性的な人手不足で高齢者の受け入れ先がない、待機児童が解消できないといった構造的な問題に直面しており、政策的に賃金引上げが図られる。ただ、もともとの水準が低く、介護では40歳時平均年収が432万円と、ほかの業界と較べて低年収である(『会社四季報 業界地図 2016年版』より)。水準が低いところからの小幅な賃上げ、ということであり、必ずしも「給料が上がる=高収入になる」ということではない。

 また先ごろ政府が閣議決定した一億総活躍プランでは、「同一労働同一賃金」が目玉になっている。非正規雇用であっても、同じ仕事をしているなら賃金を正規雇用者と同じにする、つまり、非正規と正規の賃金格差をなくす、ということである。これが進めば、非正規として働いている人の多くは給料が上がる、ということになるだろう。逆に、非正規の人の賃金を上げるため、正規雇用の賃金は上がりにくくなる、という側面は否めない。

 ただ、長期的には人口減少が給料に響く可能性は非常に高い。ここ数年、一部のサービス業では人手不足に悩まされており、飲食業などではアルバイトの時給を上げている例もある。人口が減れば仕事にあぶれないと考える人もいるが、それは一時的なことであり、人口減少によって消費が減ることのほうが遥かに問題は大きい。

 消費が伸びなければ生産の必要性が下がるし、高齢者の割合が増えることで現役世代の社会保障費負担が増し、ますます消費は落ち込む……という負のスパイラルが待っている。日本では抵抗が強いが、移民を受け入れて労働力を確保し、その人たちにも消費してもらう、納税してもらう、社会保障費を負担してもらう、ということを本格的に考える必要があるのではないだろうか。(第84話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第100話)

第100話:マーケターではなくマーケティング・スタッフの道を歩みます。

 企業人との会話の中で、自分自身の職務を表現する言葉の一つに「マーケター」という表現があります。最初に耳にしたときにはよく理解が出来ませんでした。そもそも何をする人なのかが分からなかったのです。今も良く分かっていません。マーケティングを実践する人なのでしょうか。

 マーケティングという言葉を聴くと、浮かんでくるのは企業の活動、特にモノを生み出し・販売する方法を効率的に組み立てる、さまざまな手段と理解される場合が多いと思います。そこで、顧客の声を聞く調査を実践する役割、モノづくりのための開発を進める役割、販売をより効率よく効果を高めるための販売促進や広告手段を考え実行する役割が必要になります。その手法を理解しそれぞれを実践する人が、マーケターなのでしょうか。してみると、ひとりで全てを実行することは不可能であり、多くのマーケターが登場してくることになります。

 マーケティングは「Market+ing」。直訳すれば「市場の現在進行形」です。現在の暮らしは、Market(市場)の複合体の中で営まれています。つまりマーケティングは、自分が生きている「今」という時と場の中で、さまざまに起きる現象や事象を自分で「解釈」し、「決定」し「対応」する思考と行動の体系です。企業の経済行為を効率よく運営する手段の体系に止まりません。企業も法人としての人格を持っています。ということは、企業自体は変化を解釈し、決定し対応する主体者であり、マーケターということになります。

 全体の一部を担当するためには、部分最適を求める眼と共に、全体最適を見る眼が必要になります。だからこそ、マーケティング力とは、自らが考え、決定し実行する力をつけることと理解できるのです。そのごく一部を担務する人たちをマーケターと言ってしまうと、幅が広すぎて理解が進みません。一言で全てを言ってしまおうとするあやふやさもあります。

 私の場合、自分の仕事は「マーケター」ではなく、マーケティング実践の多くの場面に参画し、企業活動の円滑化を支援する「マーケティング・スタッフ」と心得ています。(第101話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

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戦略は「未来図から現在の引き算」を知る。

第10回:未来図から現実を引くと、実行すべきことが見えてくる。seino0915戦略は「未来図から現在の引き算」を知る。

 ビジネスの現場で「戦略」という言葉は、よく聞く言葉の一つです。「何ごとも戦略的に考える」「この企画には戦略性が乏しい」・・・といった表現を何度も耳にした気がします。

 ここで使われている「戦略」とは、どのような意味を持っているのでしょうか。「大局的:全体」ということでしょうか、「将来性:長期」ということでしょうか。どちらも正しい感じがします。

 戦略思考は、未来を描いて、現状を見直すことが前提です。理想に対する現実のギャップをみるとも解釈できるでしょう。

 まだ理想に至っていない不足を充足させるための思考と 行動こそが「戦略」なのです。(第11回に続きます)

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第82話)

第82話:業績を左右する海外要因

 業績が上がりそうな業界、下がりそうな業界を占うために、まずは足元の経済環境を整理しておこう。まず認識すべきは、当面は国内より、海外要因の影響を大きく受けるということである。

 米国の大統領選は世界経済に影響するビッグイベントだが、それより早く、大きなインパクトになったのが、ブリグジット、英国のEU離脱だ。ご存知のとおり、ブリグジットによる株価の大幅下落、円の急伸と、金融市場は大きく動揺した。具体的な交渉はこれからということもあり、今は落ち着きを見せているものの、英国は日本企業にとって欧州における拠点であり、日本企業の進出先としてはアメリカに次ぐ数となっている。EU域内でのビジネスにおいて英国に拠点を持つことはメリットが大きかったが、それがなくなることを踏まえ、移転を検討すべきか、ではどこに拠点を移すべきか、英国に追随する国もあるのではないか……と、先行きには多くの不透明な要素がある。しばらく、日本企業は混乱が続くとみられる。

 円の急騰も企業業績にかなりのダメージがある。日本企業はおおよそ105円前後を想定レートとしているが、9月13日現在の為替レートは101円台と、想定レートから大きく円高に振れている。 アベノミクスでは金融緩和によって円安を誘発し、輸出企業が業績を伸ばしてきたが、円高によって利益が大きく削られる。円高はインバウンドにも逆風であり、円高になるほど、海外からの旅行者は負担が重くなり、旅行者数にも影響するし、爆買いも期待しにくくなる。

 では、プラスの材料はないのか。

 4年後に迫った東京オリンピックは、明らかにプラス材料である。1984年のロサンゼルス大会以降に先進国で開催されたオリンピックでは、開催が決まってから7年間の経済成長率はその前の7年間に比べて年平均0.3%押し上げられている。ブラジルは景気が冷え込んでいるという声も聞こえるが、オリンピックがなければさらに状態は悪かったのである。東京オリンピックの経済効果は3兆円と推計されているが、インフラなど含めれば生産誘発額は13兆円程度が見込まれる。最も成長率が高くなるのは開催の前の年であり、今から3年後の2019年、ということになる。そこをピークに、開催の年には息切れするのが通例で、2020年には前年比で成長率が下がると予想される。

 足元では円高による影響も避けられないが、インバウンドを取り込める業界にとって東京オリンピックはプラスの要素だろう。鉄道では「ななつ星」などの豪華列車が好調だが、国内需要のみならず、インバウンドの取り込みも期待できる。ただし、長期的にみると国内は人口減少という足かせがあるので、国内の需要の減少をインバウンドで補う、というのがせいぜいか。(第83話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

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ヒーローの時代は終わる

 

 今回の米大統領選の一つの焦点は、グローバル化の反省である。日本でも89年に冷戦が終焉すると、一転してグローバル化の中で苦労した。グローバル化は先進国にとって格差を生むんだ。しかし、一方発展途上国はこの4半世紀で先進国との差を大きく改善した。後進国が中産階級層を持つまでになったのはグローバリズムの成果だろう。

 先進国の格差はビジネススタイルでの格差になった。それは知識労働とマニュアル的作業のマックジョブの所得差の拡大を意味する。以前はマックジョブスタイルでも、家が買えたが今は買えない。一方知識労働につける者の数もあまりにも限定的になった。通信・IT、データ解析などの一握りのエリートだけで数万人、数十万人の雇用を作れるから、ヒーローとなる少数のエリートがいれば、それで十分事足りるのだ。また世界の新中産階級層市場の拡大が少数のエリートをさらにヒーローにした。

 しかし、これはグローバル化の第1期の出来事だったかもしれない。

 2020年あたり以降、第2期のグローバル化は大きく変化するのではないだろうか。

 第2期のグローバル化のキーワードは、多様化だろうと思う。そしてこの多様化によって、一人のヒーローが数万人の雇用を作ることはもはやできなくなるかもしれない。ヒーローは人工知能に代わるだけか。

 新中産階級層は、成功の自信と生活の余裕によって急速に多様化が進むかもしれない。

 先進国では大きな変化が出てくるか。グローバル化によって辛酸をなめた敗者たちの反乱とでも言わんばかりに、これまでのビジネス中心の考えを捨て自らのライフスタイルを中心におく人々が出現するかもしれない。ライフスタイルを人生の中心に置くとは、モダンに見切りをつけた「新古代主義者」を大量に生むことを意味するのかもしれない。また一時話題になったゆとり世代が活躍するかもしれない。彼らは組織人間としては多少もろいが、高い感性を持った人たちだ。ひょっとすると世界の新中産階級層は、ヒーローよりもこのような些末な人々により共感するかもしれない。

 ならばビジネス・スタイルは変わるだろう。多様化は一人のヒーローが何万人の雇用を作ることを困難にさせるからだ。多様化の中では、一人の企業家やアイディアマンが作る雇用はたかが知れているし、当たる確率はさらに小さく、当たったとしてもすぐ飽きられるかもしれない。

 何万人と雇用を生むヒーローが生まれにくい時代になるだろう。大企業は思うように利益を上げられず、解体されるかいくつもの小組織に分割され、緩い関係で組織形態を継続するようになるかもしれない。グローバル第2期では今の中小企業のサイズが最適になるのかもしれない。

 もし、本当に大企業の値打ちが急落する時代が来るならば、マス・メディアは未来を暗黒の時代だと書き立てるだろう。

 しかし、いつの時代でも重要なことは、暗黒は夢を描けないことではない。また希望とは夢を描くことでもないということを知るべきだ。希望とは踏ん張って、踏ん張った先に、何かしら見えてくるものだからだ。

ジパング・ジャパン
代表 吉野晋吾