エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第80話)

第80話:五輪後の景気減速は必然

 今から4年後の2020年、実に56年ぶりに東京でオリンピックが開催される。オリンピックという世界的なイベントを開催するためには、競技場などの会場施設や選手村、またはそれらの施設への導線となる道路整備など、実に様々な開発事業が実施される。

 2020年に東京で開催されるオリンピックの予算は、大会運営にかかる直接的な予算を含めて約8000億円が見込まれており、更にオリンピックに関連して整備される空港、交通機関、周辺道路、ホテル、観光施設の整備、オリンピック関連商品の販売、観光客による飲食店やサービス業などの需要拡大までを含めると、その経済効果は3兆円以上にもなると言われている。

 これだけ大規模なプロジェクトであるため、国の経済にも大きなプラスの影響を及ぼすことは想像に難くない。実際、先進国で開催された過去5回のオリンピック開催地となった国の経済成長率が、招致決定前の7年間、招致決定から開催までの7年間、そして開催後の7年間でどう変化したのか算出すると、直前7年間の経済成長率は約3%で、その前の7年間に比べる0.3%ポイントほど高い伸び率になっていることがわかる。一方、開催が終わった後の7年間は2.2%と、逆に0.8%ポイントほど成長率が下がっている。このため、オリンピックに向けて様々な投資が行われた後は、景気が減速する傾向があるということがわかる。

 実際に1964年10月に開催された前回の東京オリンピック前後の日本の経済成長率を見てみると、開催前の1962年頃から急激に成長率が伸び出しているのが確認できる。また、オリンピック開幕の3四半期くらい前から成長率の鈍化がすでに始まっていることも同時に見て取れる。

 当時の日本は、戦後の高度経済成長期の最中にあり、急激な経済発展を遂げつつあったものの、まだまだ先進国からは遠く離された発展途上国であった。そのため、オリンピック開催に向けて行われたのは、東海道新幹線の他、首都高速道路や主要幹線の整備や拡張、空港施設の増築や拡張といったいわゆるインフラの整備がメインだった。

 これらインフラに関しては、オリンピック開幕に先んじて整備が終了していたため、実際の開幕を待たずに、景気に反動減が出たものと考えられる。

 2020年に開かれる次回のオリンピックに向けても、前回ほどではないにせよ、会場施設の建設や、周辺関連施設の建設に加え、インフラの整備も行われる。

 オリンピック開催後も、引き続き同規模の投資が行われるとは考えづらいため、やはり開催後の成長率の鈍化は避けては通れないだろう。つまり、宴の後の寂しさは、オリンピック閉幕後、経済にも漂ってしまうことが予想される。(第81話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第98話)

第98話:「大人顔の子ども」に多く出逢うようになりました。

 毎年のように、その時々を賑わすヒット商品が誕生します。短命のものもあれば、社会的に常態化していつの間にやら定番化するものもあります。一時的な風に敏感に反応するのは、好奇心旺盛な子どもであることが多いもの。世情の理(ことわり)を知ってしまった大人にとってみれば「たわいない」ものでも、子どもの眼には新鮮に映るものがあります。

 何事にも旺盛な好奇心を発揮して、新しいものを生み出そうとする活力を見せることは、大人になった途端に忘れ去ってしまう感性かも知れません。しかもその活力が、社会的な新しい動きを生み出そうとするエネルギーに転換されるなら、その活力に期待がもてます。

 しかし、最近の子どもの活力はどうも違うところで発揮されてしまっているように感じることがあります。なぜか訳知り顔をした子どもがいます。無邪気に飛び跳ねることもなく、好奇心を発揮して未知なる世界に飛び出そうとせぬままに老成の境地に至ってしまったような顔。「なんでだろ~なんでだろ~」と繰り返す歌もありましたが、そのような疑問詞が聞こえてこない社会になっているように感じさせます。

 「子ども心を持った大人」は愛嬌があるもの。分かった振りをしない。素直に不思議と思う心をぶつけてくるからです。その逆はどうにも性質が悪いものです。したり顔で世の中を見ようとする。人と人との関わりに、それ程の経験を持たぬが故に、自分の行動を善として動こうとする。横柄なのです。我が物顔で街を闊歩する。しかも体つきが、栄養のバランスが良いのでしょう、大きいのです。世の理を伝えようとしても、聞こうとしない。横着なのです。

 「身体だけが大人になってしまった子ども」。体格の成長と、思考力の生育とのアンバランスがあるようです。

 市場を細分化してみる際の尺度も、どうやら年齢によるものだけではすまなくなってきています。大人と子どもの、マインド面でのインデックスが必要な時代の風を感じます。(第99話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第79話)

第79話:円独歩高の敗者・日本の悲劇

 筆者は、先進国で富裕層と中間層以下の格差が広がってきた理由は、経済のグローバル化が進んだことと見ている。事実、東西冷戦の終結により資本主義国と社会主義国を分断していた市場の垣根が無くなると、先進国は新興国の安い労働力が使えるようになり、先進国は挙って新興国に工場を作る等して、資本を新興国に移していった。

 一方、新興国は安い労働力を提供できたため、それによって新興国の人々は働く機会を得ることができ、かつ市場経済にアクセスできるようになった。そうした状況下で、先進国と新興国の格差が縮小する圧力がかかった。

 このように、先進国と新興国の市場が一体化すると、それまで先進国の中低所得層が担ってきた仕事は新興国の安い賃金の労働者に委ねられるようになる。すると先進国の中低所得層の賃金は下落圧力がかかり、先進国内では格差が広がる。つまり、先進国と新興国の格差が縮まる一方で国内の格差が広がることは、経済のグローバル化の中で必然である。

 そして経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適な立地に動く。そうなると、マクロ的には出来るだけ中低所得者層の雇用機会や所得を確保するような政策が重要性を増し、通貨政策面では自国通貨を下げ、自国のブルーカラーやサービスの仕事を確保する方向に動く。その結果、製造業や観光産業等の競争が有利になる通貨安競争が広がる。

 こうした中、英国で思わぬEU離脱でポンド安になり、ユーロも連れ安、米国も早期の利上げ困難の観測で円独歩高となったのは、米ドル金利が下落する中、既にマイナス金利を導入している日本との金利差が縮小したことが主因と考えている。

 一般的に指摘されるのが安全通貨説である。すなわち、インフレ率が他国に比べて低く通貨価値が下がりにくいだけでなく、巨額の外貨準備や経常黒字により対外支払い余力があり、国債の9割以上が国内で消化されていること等から相対的に安全とする説である。

 しかし、日本以外の国々でも、思わぬEU離脱によりリスク資産の株等から安全資産の債券等に資金シフトは発生している。このため、世界的な国債への資金シフトが長期金利の低下をもたらし、これが通貨安に影響を及ぼしたと考えられ、相対的な安全性を根拠とした通貨安とは言い切れない面がある。一方で、すでにマイナス金利導入で長期金利もマイナス圏にある日本では、更なる金利の低下余地が少ないため、市場がリスクオフに動いたとしても、長期金利がプラスの諸外国に比べ長期金利の低下余地は少ない。このため、諸外国との金利差縮小が円独歩高に結びついていると推察される。

 以上をまとめると、英国の国民投票で下された思わぬEU離脱は日本にとって耐えられない円高をもたらしたが、これは通貨価値の安定で相対的な安全性が高いとする安全通貨説というよりも、先行き不安による市場のリスクオフを経て、世界の長期金利低下が寄与したものといえる。翻って日本の現状を考えると、長期金利はマイナス圏内にあり、その低下余地は非常に乏しい。つまり、諸外国に比べて通貨政策の余地が少ないとみなされていることが円高をもたらしており、デフレ克服を困難にしているといえる。(第80話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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マーケティングの多様な思考と「考動」力を語る。

第9回:マーケティング・スタッフを目指す君に贈る言葉は多様。
seino201608マーケティングの多様な思考と「考動」力を語る。

私のオフィスは、若きマーケティング・スタッフの錬成の場とも心得ています。創業時より、ほぼ毎年のように大学生がビジネスの実践を学ぶべく「学生スタッフ」として参画してきました。

数えて40名近い若きスタッフが巣立って行きました。そして今や50代で組織の責任ある立場にあるビジネスパーソンや、親子二代にわたる者もいます。

その一人ひとりの活躍を思うと、歩み来たオフィスの歴史を感じます。彼らに語り継いできたことを改めて見直してみました。マーケティング思想の基本は変わらぬものと、改めて知る時でもあります。(第10回に続きます)

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清野氏 法政大学 講義

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第97話)

第97話:「良品」は廉価ではなく、本来「適価」であるはずです。

 昭和30年代に起こった「流通革命」。その波の中で注目されたのは「良いもの、お安く、どんどん」の考え方です。「品質向上」に努力し、かつ生産性を高めるために展開されたTQC運動。その思想の背景にもやはり、良い物を安く提供するといった考えがありました。

 その後の高度経済成長の中にあっても、基本的な指向性は変わることなく維持されてきたと見るべきでしょう。わが国の成長神話の裏側には、「良品を廉価で大量販売」の思想が染み付いてきたようです。しかし今、その思考回路自体を再考する必要があるのではないでしょうか。

 そもそも、「良いもの」とは何でしょう?それは、自分にとって好ましいものだと思います。他人がどう言おうが、自分自身の身の回りや生活にとって欠かせないものは、良いものです。決して与えられるものではありません。ましてや、提供者に強制されるものでもありません。購入者自身が自分の判断で自らが決めるものです。その全ては安いものでしょうか。自分の懐との相談で決めることではないかと思います。また、今までに無かったような良いものであれば、安いことの必然性はありません。自分自身が納得するものは、高くてもいいはず。お仕着せの安さは、本来の自分をつくらないのではないでしょうか。

 そろそろ、思考回路を変える時です。提供者側も受容者側も。良品は「適価」のはず。受容者は安さだけを求めているのではありません。自分にとって良いものを求めているのです。安逸なる値下げ。そして、たちまちの再値上げ。そのような行為は、提供者側の論理の押し付けでしかありません。受容者は決して望んではいないと思います。

 マーケティング思考の原点ともいえる4P(Product/Price/Place/Promotion)の核でもあるProduct & Price。そこには、良品廉価の言葉はありません。常に受け手の立場で、提供物の価値を見直すことを教えています。「良品」は「適価」の思考回路をもったマーケティング展開が問われる時代です。(第98話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

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