エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第68話)

第68話:重要な労働市場改革

 日本経済には、短期的な政策だけではなくサプライサイドの政策も重要である。日本の人口動態を考えると、特に2020年代後半以降は、このままいくと生産年齢人口の減少幅が拡大に転じて経済成長率も非常に厳しくなることからすると、一億総活躍社会の打ち出しは理に適っているといえる。

 実際に総務省の労働力調査を基に、足下で本当は働きたいが何がしかの理由で求職活動をしていないいわゆる就業希望の非労働力人口を確認すると、2015年10-12月期時点で400万人以上存在している。そして理由別にみると、出産・育児のためが95万人、介護看護のためが20万人存在しており、これを考えると、出産、育児や介護等の対応が喫緊の課題になっている。

 一億総活躍社会の鍵は女性と高齢者の活躍が鍵となるが、個人的には外国人も重要と考えられる。そういう意味では、女性、高齢者、外国人の就業を阻害している最大の要因が日本特有の雇用慣行であり、同じ会社に長く勤めれば勤めるほど、恩恵が受けやすい就業構造を変えていくことが必要である。これが変わらない限り、なかなか女性、高齢者、外国人就業は厳しい状況だと思われる。

 象徴なのが、正社員の賃金構造が年功序列となっていることであり、これを打破すべく一刻も早く踏み込みが必要な政策が、産業の六重苦の一角を担う厳しい労働規制の中でも、正社員の解雇ルールの明確化やホワイトカラー・エグゼンプションのような労働市場の流動化を促し労働生産性を上げる政策である。

 実際にOECD諸国の経済成長率と勤続10年以上の男性社員割合の関係を見ると、明確な負の相関がある。従って、労働市場の流動化と経済成長の関係を見ても明確な関係があり、ここは成長戦略の中でも最も踏み込みが期待される部分である。

 また、外国人の活躍については、全国各地の大学が外国人留学生を増やすことで地方創生に結びつくと考えられる。諸外国との比較で見ても、日本が受け入れる外国人留学生はそこまで多くない。実際にオーストラリアは2013年時点で約25万人と米国、英国に次ぐ世界第三位となっており、2014年のオーストラリアの財・サービスの輸出額の中では、鉄鉱石、石炭、天然ガスに次ぐ4位となっている。そして、日本では留学生30万人計画という目標があるが、オーストラリアはそこまでいっていなくても2014年の輸出額で170億オーストラリアドル、日本円で換算して1.4兆円程度ある。日本のインバウンドの消費だけで去年3.4兆円程度であることからすれば、我が国もオーストラリアの政策を見習って、もっと外国人留学生の増加に力を入れるべきなのではないかと考えられる。(第69話に続きます)

永濱氏レポート

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

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そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第91話)

第91話:顧客との関係は、相手を邪魔しない「緩繋(かんけい)」です。

 マーケティングのパラダイムが変わったと言われます。ある刺激に対しての反応を待つ、「瞬発力」の高い「刺激-反応」のビジネスモデルから、一度出来た顧客との関係を、長く強くその結びつきを維持していこうとする、「持続力」が問われるビジネスモデルへの注目です。関係性マーケティングが基本の発想として取り上げられています。確かに、新たな顧客を獲得することは、かつて程たやすいことではありません。それ以上に、一度でも知り合うことの出来た顧客と長くその関係を維持することを考えた方が、圧倒的に効率的です。

 しかし、問題は移り行く顧客をどのように繋ぎ止めておくのかということの施策の創造にあります。企業(送り手)サイドから考えれば、一度でも購入・利用・消費・来店してくれたお客様が、次回の機会にも間違いなく自分たちを選択対象にして欲しいと思うもの。

 継続は企業経営に力を与えます。だからこそ、企業は顧客を「管理」したいと思ってしまうのです。「顧客管理部」といった何とも珍妙なセクションが登場したりします。顧客は誰一人として「管理」されたいと思ってはいません。顧客の関係づくりが大切だと言っている企業に訪問して、そのような名称の部署に出会うと何とも笑ってしまいます。企業にある部署は、実は全て「顧客部」なのです。お客様への価値提供のために、さまざまな役割を持って相互に連携しているのが「会社」という集団です。

 お客様との関係は、意図的にある形を持って生み出されるのではなく、人と人の信頼関係のように、お互いの十分な理解のうえに成立すると考えられます。絆は太いロープのように、お互いの身体をグルグル巻きにしたものではありません。もう少し、緩やかな結びつきです。「縛る・囲い込む」といった逃げ場の無いような状況を創造するのではなく、いつも何となく側に居てくれるような存在になることが、今企業マーケティングの基本テーマ。「関係性」パラダイムでは、「緩やかな繋がり」の「緩繋」の実態化が問われているのです。(第92話に続きます)

 

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

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マーケティング・イノベーションは、今までを壊して新たなものをつくることではありません。

第4回:マーケティングの具体化は「かえる」力の実践にある。

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マーケティングは「かえる」ことを考える。

マーケティング・イノベーションは、今までを壊して新たなものをつくることではありません。今の時代に合わせた「価値」を考え提示することです。

新しいものがすべて良いものとは限らないのです。守り続けるべきものも多くあります。時代に受け容れられているかが基本の思考です。

「新結合」が言われるイノベーションに必要なことは、「こわす」のではなく「かえる」ことにあります。しかも、その視点が多様に広がっていることを心しておかなければなりません。(第5回に続きます)

 

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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第67話)

第67話:求められる財政政策②

 財政政策については、既に昨年度の補正予算という形で政策がまとめられており、このメニューについて全般的な方向性は一定の評価ができよう。ただ、事業総額を見ると3.5兆円にとどまっており、これは内閣府の試算によれば今年度のGDPを+0.4%程度押し上げるということになっているが、当研究所の計算によれば同+0.3%程度であり、非常に力不足である。このため、今後の財政政策の方向性としては、これをさらに拡充するという方向が良いのではないかと考えられる。

 一方、公共事業について、よく建設現場で人手不足ということを言われてきたが、建設労働者の労働需給判断DIを見ると、不足感は解消してきており、マイナス金利の面でも、今、安倍政権始まって以来、最も機動的な財政政策の効果が出やすい時期になっていると考えられる。

 このため、公共事業も一定割合は増やす必要があろう。具体的には、熊本地震復興を筆頭に、介護施設や保育所の増設の部分については昨年度の補正予算では不十分であるため、そうした方向性の増額も考えられるだろう。また、国内の空港整備や港湾インフラといった日本全体の国際競争力が増すような公共投資であれば、国民にも理解される可能性が高いと考えられる。

 さらには、数年前にトンネルが崩落した事故もあったように老朽化インフラの整備も重要である。日本のインフラは50年以上前に建っているものが多くを占めるため、老朽化インフラ整備については、本気で取り組めば甚大な需要が存在する。こうしたメニューを上手く取捨選択して、いかにワイズスペンディングという形ができるかが重要であろう。

 具体的に必要な規模については、1つ目安となるのは足下の需要不足である。去年の10-12月期時点で年換算8.6兆円となっているため、昨年の補正予算の規模も加味すれば最低でも5兆円規模は必要と考えられる。さらに、ESPフォーキャスト調査に基づくエコノミストの予測の平均成長率が実現した場合、今後の日本のGDPギャップがどうなるかを予測すると、消費増税が織り込まれているため一旦は駆け込み需要で縮小するも、その後は反動減でマイナス7兆円のデフレギャップに逆戻りすることになる。デフレ脱却を重視するのであれば、次の消費増税も織り込んだ形で日本経済を考えると、デフレ脱却は2017年度一杯までは厳しいことになる。逆にデフレ脱却よりも財政再建ということを前向きに打ち出すのであれば、消費増税という選択肢もある。このため、ここはどちらを重視するかによって消費増税を予定通り実施するか先送りするかの重要な決断になってくるのかと思われる。(第68話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第90話)

第90話:意味を知ると、漢字一文字でもコミュニケーションは可能です。

 文字は長い歴史と共に形成され、その時代時代の解釈が加えられてきました。現在では、略号や短縮文字が横行しています。そして漢字を手で書くことを忘れてしまうほど、コンピュータ化が進んだオフィス環境です。ますます文字を介しての意思伝達ではなく、記号を介した意思伝達が主流を占めるのでしょうか。心の奥底にある自分自身の意思や強い想いを言葉にして表明することは、なかなか至難のことです。言葉を知らなければ、それだけ薄っぺらな表現になってしまい、ことの本質を伝えきれないことも多くなってしまいます。それだけに、文字の持つ意味の広がりを多く知っておきたいと思います。

 マーケティングの分野にあっては、特にカタカナになってしまった言葉が多くあります。マーケティング自体がそうですが、マーケット・セグメンテーション(市場細分化)/PLC(製品寿命)/CS(顧客満足)/3C(顧客・競争・企業の分析:漢字の頭文字で3Kでも良さそうだ)・・・。何もカタカナ語が悪いわけではありません。意味共有ができるのであれば、カタカナ語にも意味はあります。しかし、漢字には一文字で全てを表現するほどの力があるもの。

 毎年12月にその年を言い表す漢字一文字が発表されます。2015年は「安」が代表でした。ただの一文字ながら、何となく時代の雰囲気を感じるもの。今年は、どのような漢字が世相を現すのでしょうか。

 文字の持つ原点的意味には深さがあります。意味があるからこそ、たかだか一文字が多くの連想を広げていくのです。コミュニケーションは本来、お互いの意味共有の行為です。記号のやり取りも良いのですが、それだけでは本来的な意味が通じ合っていないこともあります。私自身、拙いながらこのコーナーで、表層に流されない本来的な意味解釈を求めていきたいと思っています。(第91話に続きます)

法政2015年最終講義:2015.12.21

清野氏 法政大学 講義

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司

Eメール: maps@mapscom.co.jp

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