エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第23話)

第23話:踏み込み不足も多いアベノミクス

 アベノミクスは、第3の矢と言われる成長戦略で踏み込み不足のところがある。成長戦略は大きく4つの項目に分かれている。①稼ぐ力を取り戻す、②担い手を増やす、③岩盤規制の撤廃、④その他のエネルギーや観光等である。

 稼ぐ力を取り戻すことについては、法人税を下げることも決まり、コーポレートガバナンスも進んでいる。政府の賃上げ要請もある程度の効果が出ている。金融資産の活用としては、公的年金の運用方針が見直されており、この部分は進んでいる。

 次の担い手を増やすという課題では、安倍政権になって初めて50年後に1億人を維持するという人口の目標を掲げた。今、日本の出生率は1.4台だが、早期にそれを1.8まで上げるという。少子化対策に成功しているスウェーデンやフランスは1.4程度から1.8まで改善しているため不可能ではないだろう。しかし、最終的に2.07まで持っていこうとしている。これは、日本人だけで人口が維持できる数字だが、かなり難しい。移民という方法もあるが、安倍政権は否定的なスタンスである。出生率を上げても、効果が出るまでには時間がかかる。しかし、幸いなことに日本は潜在的な労働力を多く抱えている。まずは女性である。本当は働きたいが何らかの理由で求職していない女性が、日本には300万人以上いる。高齢者の労働力を活用していくこともできる。更には外国人労働者を有効に活用することも考えられるが、まだ効果的な策は出ていない。

 岩盤規制の撤廃のうち、雇用については正社員の解雇ルールの明確化が本丸である。今まで日本の企業は、正社員の解雇ルールが明確化されていないため、採用を絞ってきた面がある。そのしわ寄せが若年労働者にいき、子供を産み育てる世代の雇用所得環境が悪化し、出生率の低下につながっている。安易にリストラをすると、ブラック企業のレッテルを貼られ、優秀な人材が集まらなくなるため、企業は簡単にリストラをすることはできないが、いざというときの保険があるかないかで全く異なる。最悪の事態になったときに解雇できるという安心があるだけで採用は増える。

 また農業は、地方創生という意味でも重要である。農業のように地方が都市部に対して優位性を持っている業種は限られているが、やり方次第で成長産業になる可能性もある。好事例がオランダである。国土面積も人口も九州と同等だが、農産品、食料品の輸出額は世界第2位であり、年間8兆円も輸出している。日本は5000億円だったため、日本の16倍も輸出していることになる。オランダの農業は、ITを駆使して効率の高い栽培をし、高品質のものを安い値段で世界中に売っている。日本でも物理的にできないわけではない。

 これまでの日本の産業構造の流れを考えると、優秀な人材を抱えた有力な企業が参入することで産業が伸びてきた。ところが日本は農地法の壁があり、企業が自由に農地を取得できない仕組みになっているためそこに踏み込めていない。農業に従事する人の平均年齢は65歳を超えている。今のままだと若い労働力が入っていかず、日本の農業は衰退してしまう。そうならないためにも、農地法の改正が必要である。(第24話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

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永濱利廣著
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図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第45話)

第45話:「無愛想」なやりとりには、相手を思う心が足りないようです。

 週末に書店を回るのが好きです。一週間の仕事を終えて、次週に向けての心積もりをした後は、少し気を緩やかにして、オフィス近くの古書街を回ったり、帰路に少し手前の駅で降り、駅近くのリサイクルブックの店に立ち寄ります。最近その類の店は、書物だけではなくCDやDVDの扱い幅も増え、老若男女入り乱れた店内になっています。

 店で働く人たちは元気一杯。客がいようがいまいが、大きな声で「いらっしゃいませ」の大合唱です。時には耳に響き過ぎて、うるさいと感じることもあるほど。その店は、立ち読みは自由。立ち読み読者に大きな声は、ノイズになると思うのですが、一切構わずに大声の連呼。自分自身の作業にリズムを取っているだけに聞こえてきます。決して、来店客に愛想を振りまいているわけではないでしょう。彼らの顔に、微塵の笑顔も見えないからです。

 そこそこ店内を見回して、数冊の本を持ってレジへ。「メンバーカードはお持ちですか・・・?」のお決まりの質問をされます。「はい」と答えて、本と共にカウンターに置く。精算が始まる。機械的なレジの音だけが響く。一切の会話が排除されています。合計金額の案内に沿って代金を払う。「ありがとうございました」の声よりも早く、他の店員から「いらっしゃいませ」の声。そこには入店した人は誰もいないのに。

 私の次に並んだ男性が、無造作に本をカウンターに置く。置くと言うより放り投げる感じです。レジ担当者からは同じ質問。客は答えようともしない。眉間にしわを寄せて、早く計算をしろといった風情。会話も笑顔もない。かといって、気まずい空気でもない。何の会話もないことが当然と言った雰囲気で、支払うべき金を、これまた放り投げます。愛嬌を感じない空間です。

 週末のリサイクルブックストアでの一こま。いつからこの国は、笑顔も会話も愛嬌もない、店も客も「無愛想な関係」が生まれてしまったのでしょうか。(第45話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第22話)

第22話:さらなる円安対策が必要

 アベノミクスは円安対策が不十分である。そもそも円安が悪いわけではない。円安になればなるほど企業業績は良くなり、国の税収も増える。日本の経済問題の最終目標が、国の財政の維持可能性を担保することからすれば、税収が増えることは悪いことではない。

 ただし、円安は全ての人にとってプラスではないことが問題である。円安の恩恵を受ける企業で働いている人や投資で儲けている人は、物価の上昇以上に収入が増えている。家計の金融資産は、アベノミクス以降180兆円以上増えている。したがって、日本全体では確実に潤っているのだが、円安の恩恵を受けられない企業に勤めている人は、それほど給料が増えていない。

 企業は円安によってトータルするとプラスだが、大企業と中小企業では大きな差がある。大企業の中で、最も円安の恩恵を受けているのが輸出企業だ。輸出企業の多い上場企業はかなりのプラスになっているが、中小企業は若干のマイナスである。とくに下請企業は、円安による原材料費の高騰とエネルギーコストの増大で、大きな打撃を受けている。円安で大きな利益を出している親会社が、コストアップになかなか応じてくれないことも、下請企業を苦しめているようだ。

 また、都市部と比べて地方のほうが、円安の負担を受けやすいという問題もある。地方では暖房費やガソリン代などのエネルギーを多く使う。円安によってエネルギーコストが高くなると、それだけ負担が増えることになるのである。

 すでに政府は下請企業のコストアップ分を価格に転嫁するように通達を出しており、原材料費のコストアップ分の上乗せは徐々に認められていくだろう。しかしエネルギーコストの負担増をどうやって緩和するのかも考えなければならない。やはり、円安への対策がもう少し必要ではないだろうか。

 日本では、欧米に比べて起業が非常に少ないという点も指摘されている。企業の形態を考えると、アメリカと日本では産業構造に大きな違いがある。アメリカは自由の国で世界中の頭脳が集まっていることもあり、アメリカで上位の企業は目まぐるしく変わっている。ところが、日本の有力な企業は、昔から名の通った企業がずっとその地位に残っている。

 その背景には、優秀な人材が大企業に入ることによって企業の中で業態転換を行い、稼ぎ頭を変えていくことによって日本の企業は生き残ってきたからである。それによって経済が成長していくのであれば、起業が少ないこと自体はそれほど大きな問題ではない。

 ただし、大卒の就職動向を見ると、少し心配な面もある。2014年の日経就職人気ランキングのベスト3は、保険会社が独占した。成長を生み出す企業というよりも、成長を支える企業である。また、公務員を志望する人が多くなっている。若年層は安定志向が強まり、チャレンジ精神のない人が増えているように見受けられる。世界で活躍する企業が増えなければ、日本の将来は明るいものにならない。これで日本は大丈夫なのか危惧せざるを得ない。(第23話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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永濱利廣著
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トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第44話)

第44話:自分の頭で考えて、自分なりの答えを出すこと。

 1990年代後半から、失われた年とも言われて、ビジネス界では、さまざまな片仮名モデルが紹介され続けてきました。リ・エンジニアリング/リ・ストラクチャリング/リーン革命/シックスシグマ/バランス・スコアカード/アウトソーシング/SCM/CRM・・・。言葉の意味を理解するだけでも時間がかかると思う人もいるのではないでしょうか。

 しかし、モデルは考える糸口を教えているに過ぎないことを知らなければなりません。言葉の理解は、あくまでも表層的な知識の集積にしかなりません。自分のことは自分で考えるべきです。その際に、どのようなものの見方をすべきかのガイド役を果たすものに、先に挙げたものも含めたモデルがあります。かといって、日本の先人が残したモデルがないわけではありません。何となく片仮名で示されると、斬新な感じがするのでしょうか。既に日本企業の多くは欧米の経営モデルを真似る時期は過ぎていることを認識しなければならないのではないかと思います。旺盛なる知識修得意欲が、日本型の経営モデルを生み出してきたことは間違いないのです。

 改めて、自分の頭で考え、自分なりの解を導き出す時代です。2003年9月に刊行された新原浩朗氏の「日本の優秀企業研究」(日本経済新聞社)の一文に、優秀企業とは「自分たちが分かる事業を、やたら広げずに、愚直に、真面目に自分たちの頭できちんと考え抜き、情熱をもって取り組んでいる企業」との指摘があります。

 そのためにも「原点」を見ることを問いたいと思います。それはまた「原典」を探訪することでもあります。マーケティングを実践するには、自分の頭と言葉で考え、考え、考え抜いた想いを発していくことです。(第45話に続きます)

清野 裕司 氏
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第21話)

第21話:経済のパイを拡大させる政策は間違っていない

 アベノミクスによって格差社会が拡大するという考えは必ずしも正しくない。アベノミクスによって格差が縮まっている面も多い。

 事実、アベノミクスが始まって、円安、株高、公共事業を強化したことで、雇用者数が100万人以上増えている。非正規雇用が大部分を占めるという指摘もあるが、実際には失業者100万人が働けるようになった。新たに収入を得られる人が100万人以上増えたわけだから、底辺の押し上げにつながっているわけである。

 2013年の雇用者数の増加を見ると、前年比で非正規雇用者が100万人程度増える一方で、正社員が40万人程度減っていた。しかし、直近の2014年の後半以降は、非正規雇用の増加を正社員が上回っている。また、正社員が増加する一方、2015年の春闘では正社員だけではなく非正規社員のベースアップも行われたため、アベノミクスは確実に低所得者層の収入をアップさせていることになる。

 また、アベノミクスが始まって以来、倒産件数は大きく減っている。これに対して、廃業が増えていることが指摘されている。雇用が減っている中で廃業が増えていたら問題だが、雇用全体が増えている中で廃業が増えているということは、産業構造の転換がうまく進んで、企業の新陳代謝が活発になっていることを意味する。このため、廃業が増えていることは、必ずしも悪いことだとは言えない。

 世の中の格差が完全になくなればいいという単純な問題ではない。究極の平等社会は社会主義の国だが、それでは持続的な経済成長は期待できない。経済成長をする中で格差がある程度広がるのはやむを得ないことである。それよりも重要な問題は、低所得者層の生活水準をどの程度まで上げられるかである。事業に成功して裕福になることをアメリカではアメリカンドリームと言うが、日本においても頑張れば報われるという希望があることは非常に重要である。

 競争があることで人々の勤労意欲も強まる。経済のパイを拡大させるためにはそれなりの競争が必要である。全体のパイが拡大しないと再分配もできないため、まず成長ありきで、成長は再分配の必要条件である。パイが縮小すると、最終的には財政危機のリスクが高まる。それを考えると、アベノミクスのまずパイを拡大させるという政策は間違っていない。

 日本は相続税が高いこともあり、海外と比べると格差は大きくない。日本人が農耕民族だったことも影響しているのかもしれないが、お金を貯めたままで亡くなってしまう人が多く、もう少し相続税を強化すれば格差は縮小するはずである。納税者番号制度で将来的に国が銀行口座まで把握するようになれば、それなりに再分配ができるようになるだろう。

 こういったことを総合的に考えると、アベノミクスによって格差が拡大するというのは杞憂である。むしろアベノミクスでビジネス環境を整えて、経済を成長させたほうが理にかなっていることになる。(第22話に続きます)

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しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
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