エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第19話)

第19話:非正規雇用の問題は教育格差と密接に関係

 学歴社会という言葉が叫ばれ、庶民も高い学歴があれば豊かな生活ができるということで、日本の大学進学率は大きく伸びてきた。

 ピケティは、「かつて小学校しか卒業しなかった最下位グループが教育というはしごを一段ずつ上がって、まずは中学を卒業し、次に高卒資格を持つようになった。でもかつて高卒だったグループも、今度は大学や大学院にまで進学するようになった。言い換えれば、教育システムが民主化されても教育格差は廃絶されておらず、よって賃金格差も縮小されていないのだ」と述べているが、日本においても同じ状況が見られる。大学さえ出れば高い収入が得られるのではなく、レベルの高い大学を出なければ高い収入を得られる職業に就くのは難しいのが実態である。

 かつて国立大学は学費が安く、所得の少ない低所得層の受け皿という側面があった。ところが、現在は初年度の納付金が81万7800円という高額になっている。私立大学は文系の平均が約120万円、理系の平均が約150万円とさらに高額なため、低所得層の子供が大学に進学するのは非常に厳しい環境になっている。

 奨学金制度も大きく変わってきた。日本には給付型の奨学金はほとんどなく、その多くが貸与型の奨学金だった。日本育英会の時代は無利子で奨学金を貸与していたが、現在は日本学生支援機構という組織に変わり、利子が必要な奨学金が増えてきた。特定の仕事に就けば奨学金が免除される制度もなくなった。日本学生支援機構が独立採算制になり、奨学金が金融事業と位置づけられたことがその要因である。奨学金を受けて大学に進学しても、卒業後は多額の返済に追われることになる。

 一方、最近の調査では東京大学などの名門大学に入学する学生は、平均すると親の年収がかなり高いことが明らかになっている。大学への進学は、頭脳レベルや本人の努力という要素が大きいことも事実だが、教育にお金をかけることができる富裕層の子供が、より高い学歴を得ることができる構造になりつつある。

 企業が非正規雇用を増やすようになったことで、新卒の採用もかなり落ち込んだが、アベノミクス以降の就職率は回復している。就職率が上昇してきたのは、企業の業績回復によるところが大きいと考えられる。一般的に企業は、業績が改善してくるとまず残業を増やして対応する。さらに業績が上がってくると、人員整理が比較的容易な非正規雇用を増やす。終身雇用を原則とする正社員を増やすのは、さらに景気がよくなり、業績が安定してからのこととなる。

 このように就職率は上昇しているものの、2013年の調査によると非正規雇用の割合は依然として高い水準にある。非正規雇用の割合を男女別に見ると男性が20・3%、女性が44%、学歴別にみると大卒が20・4%なのに対して、高卒は42・8%、専修学校卒は35・7%となっており、男女格差、学歴格差の大きさがわかる。非正規雇用の問題も、教育格差と密接に関係していることがわかるといえよう。(第20話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

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永濱利廣著
永濱利廣著

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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第41話)

第41話:「ひと味」の違いが結果を左右します。まさに「決定力」の差。

 2020年は東京オリンピック。世界が注目するスポーツイベントでは、どうしても日本選手の活躍を期待します。しかし団体競技でよく聞こえてくる言葉に「決定力不足」という声があります。

 同様のことは、ビジネスの現場でも良くあることです。「考え方はうまく決まったのだが、最終的にお客様に納得を得られなかった。」「そこそこの評価はあるものの決定するまでには至らなかった。」といった声です。当人は精一杯の努力をしたとの思いはあるのですが、結果が出ないケースです。「ビジネスは結果が全て」とは思いませんが、それなりの成果が出ないのであれば、企画し実行したこと自体がビジネスとして成立しなくなってしまいます。

 例え事前の準備で、どれ程の時間的な頑張りを見せたとしても、その「時間」に対しては「ご苦労様でした」の声しか得られません。「ありがとう」と握手を求められることはないでしょう。決定力は、そのプロセスの評価ではなく、結果に対する評価です。としたならば、プロセス自体を組み替え、見直していくことが必要になります。何も、日々の仕事全てに結果を求めているわけではありません。しかし、営業であれば「成約」、企画のスタッフであれば「採用」、企業全体で見れば「(目標)達成」が決定すべきことです。その一つひとつに、どのように取り組むのかが問われます。決め手になる「ひと味」を生み出す力です。

 決めるべき場面を想定して、日々120%の力を出すことを実行しなければ、決定の場においては100の答えが出ないと思います。スポーツでもビジネスでも、蓄えた120%の力が噴出する「ひと味」の場面を大切にしたいものです。(第42話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第18話)

第18話:非正規雇用の増加の背景

 日本において、富裕層と中間層以下の格差問題よりも騒がれているのが、正規雇用と非正規雇用の格差問題である。かつて企業は単純労働者も正社員として雇用していたが、現在は単純労働者の多くが期間雇用や契約社員という形の非正規雇用となっている。単純労働ではない高度な技術を必要とする職種についても、非正規雇用が広がっている。

 一般的に非正規雇用の時給は、正社員の6割程度と言われており、非正規雇用が増えれば低所得の労働者が増える。非正規雇用の増加と同じようなカーブを描いていることから、その要因は非正規雇用の増加であることは明らかである。

 女性の場合は、非正規雇用の割合が6割弱と非常に高くなっている。ただし、年収100万円以下の労働者は、配偶者控除を受けようとする主婦がパートタイマーとして働いているケースがほとんどであるため、その分は差し引いて考えなければいけない。

 非正規雇用の増加は、経済がグローバル化して以降、その速度が加速している。新興国が台頭してきたことによって、安い労働力が供給されたことが主な要因である。言い換えれば、先進国と新興国の市場が一体化したことによって、企業における経済資源の「人」「物」「金」のうち、相対的に「人」の価値が下がってしまったのである。

 この一方で、介護分野や一部のサービス業など人手不足が深刻な職種も少なくない。いわゆる3Kと言われる仕事で、仕事がきつい割に給料が安いことから、正社員の離職率も非常に高くなっている。こういった分野に人が集まらないのは労働力のミスマッチが原因だと言われるが、それだけではない。また、就職しようとしている若者が最も気にしているブラック企業の存在も見逃すことはできない。こういった企業を離職した人が非正規雇用の道を歩むことも多い。

 また、最近の若者の働き方が多様化していることも指摘されている。正社員として拘束されることを嫌い、趣味や芸術など自分のやりたいことを続けながら、最低限の収入を確保するために非正規雇用を選んでいる人も少なくない。非正規雇用は企業の論理で生まれたものであるが、それをうまく利用して自分の働き方を見つけている人がいることも事実である。しかし、同じ仕事をするならボーナスや退職金をもらうことができ、終身雇用が保証されている正社員になりたいと思っている非正規社員もいるはずである。安倍政権になって導入された地域限定社員の制度には批判的な意見もあるが、そういった人たちの受け皿として機能する可能性も高い。

 もうひとつの問題は、日本では同一労働同一賃金のルールがきちんと定まっていないため、正社員と非正規雇用の賃金格差が大きいことである。欧米は同一労働同一賃金のルールが明確化されている国が多く、基本的に正社員と非正規雇用の時給は同じである。安倍政権の指導によって、一部の企業で非正規雇用のベースアップが実施されたが、まだ十分とは言えない。同一労働同一賃金がルール化されれば、ボーナスや退職金がなくても、正社員と非正規雇用の格差はかなり縮まるはずである。(第19話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

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永濱利廣著
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第40話)

第40話:「つもり」が積み重なると「知層」がまだらになってしまいます。

 暑い日が近づくと、ふと北国の冬に想いをはせることがあります。雪は積もると、美しい真っ白な世界を描き、まさに「白銀」を実感できるのですが、厄介なのが、マーケティング・スタッフの心に積もる思い違いのひとかけらです。

 「わかったつもり」になっている理論や、実行してきたつもりのさまざまな技法。更には、自分自身が全てをやったつもりになっているマーケティング戦略の数々。

 そもそもマーケティングの実行は、たった一人で全てが完結するものではなく、多くの人や機能・役割が相互性を持って絡みあいゴールに向かうものです。「あの橋は自分(わし)がつくったんだ」とのたまう政治家の先生の話を聞いたこともありますが、それは「橋をつくるべく計画し予算の調整を指示した」だけであって、つくったのは工事人であり、その材料を提供した企業です。全てをわが手に・・・の「つもり」は何とも質(たち)が悪いと思います。

 「つもり」が積み重なると「つもりマーケター」のそしりを受けることになるでしょう。土台がしっかりしていない、裏づけが無い、志が薄い、基が無いのですから、直ぐに倒れてしまいます。砂上の楼閣を地で行くマーケティングです。「つもり」が積もったスタッフもまた質が悪い。流行の言葉に左右される、記号を使いたがる、ちょっと立ち読みした他人の言葉を、さも自分の言葉のように発信する。

 雪が積もると一面を覆う白銀の美しさです。同じ「つもる」のであれば、実を持ってしっかりとした「知層」を重ねたいもの。「つもり」が積もると「まだら模様」の地層が脳に堆積されそうです。(第41話に続きます)

清野 裕司 氏
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第17話)

第17話:日本の格差の歴史

 第二次世界大戦以前の日本は、所得階層トップ1%が国民所得の20%を占める欧州と同じような格差社会だった。しかし、敗戦国となった日本では、占領軍によって農地開放、財閥解体といった政策が行われる。それまで小作人からの借地料で優雅な生活をしていた地主は、その利権をほとんど手放すことになり、財閥の当主として富豪の位置にあった人々も単なる株主へと追いやられた。

 所得階層トップ1%の国民所得に占める割合は戦後6%程度に下がり、2000年までは6~8%で推移してきた。2000年以降は再び所得格差が拡大し、現在は10%程度となっている。日本は大陸欧州とほぼ同じ水準で、アメリカやイギリスほど所得格差は大きくない。

 戦後の日本における所得格差の歴史的背景を考えてみると、まず高度成長期の日本では毎年給料が大きく上がり、全体で成長しているという感覚があった。実際には1960年代前半にトップ1%の国民所得に占めるシェアが8%を上回り、1970年代前半まで8%前後で推移していた。格差は若干拡大していたが、感覚的にはそうではなかった。1億総中流意識が芽生えてきたのもこの頃のことである。

 1980年代後半のバブル経済になってくると、多くの人が格差を意識するようになる。株式や土地の価格が高騰し、資産を持っている者がさらに豊かになるという構造が明らかになってきたからである。バブル時代の格差は、裕福な者がさらに裕福になっていくという格差だった。その波に乗ろうと中間所得層の中にはわずかな手持ち資金を株や不動産に投資する人もいたが、その多くはバブル崩壊で大きな損害を被ることになる。

 バブル崩壊後、日本はデフレ経済に陥る。企業は人件費を削減するためにリストラを行い、新規採用を大幅に減らした。就職先を失った若者は、非正規雇用の道を進まざるを得なくなる。こうして非正規雇用の比率が高まり、所得格差は広がっていった。

 2000年代半ば以降は、デフレ経済とともに円高が進み、経済のグローバル化が進んでいく。経済のグローバル化は、先進国と新興国の市場の一体化をもたらした。国際競争力を高めるため、企業は安価な労働力を求めて海外に工場を移転した。輸出企業の多くが円高で苦しむ中、海外生産したものを輸入販売することによって高い利益を得る企業も出てきた。また、インターネットや携帯電話を利用した新たな業態が多くの人々の支持を得て、急速に伸びてきた。こうした企業の経営者の中には、高額の報酬を得る人や多額の資産を保有する人も少なくない。この一方で、国内では非正規雇用の割合が増大し、所得格差が広がっていった。

 これは裕福な人がさらに裕福になり、低所得者層の所得がさらに下がるという両面の格差である。とは言え、アメリカやイギリスと比べれば、依然として日本では経営者層と労働者層の格差はそれほど広がっていない。また、戦前に比べれば所得格差は非常に小さい。経済成長期の終身雇用、年功序列という過去の栄光がイメージとして残っているため、少しの格差拡大で格差が広がったという意識が高まりやすいのかもしれない。(第18話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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