清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第36話)

第36話:敬称は人間関係の距離をはかる尺度です。

 仕事をしていると、自分の名前にさまざまな敬称がつきます。「~君」「~さん」「~社長」「~先生」そして呼び捨ての「~」。どれもそのときに応じたもの。したがって、そう呼ばれる自分も、そのときの気分になります。
 
「君」と呼ばれるのは、先輩・上司などの上からの呼び掛け。またある時は同列関係の仲間からの声掛け。共にさしたる緊張感はなく、即座に気軽な会話の中に入っていきます。「さん」と呼ばれるのは、仕事関係での社外・社内のミーティングの時。スムーズな時には、ごく普通に日常的やり取りが続きます。

 「社長」との声は、組織上下の関係を他者が計りながら掛ける挨拶的な声。どうしてもかしこまって、何となく相手との距離を見計らった会話になるもの。時に「先生」と言われることがあります。そもそも、職業として教壇に立ってものを教えているわけではないのですが、自分の仕事の中で、講演をしたりワークショップを展開する時の呼びかけです。何となくかしこまって議論を始めたり、不明な点への質問をしたりと、上下の関係が見えてきます。

 自分の業務の中では、もちろん「さん」付けで呼ばれることが圧倒的に多く、次に「先生」でしょうか。個人的には、全て「さん」付けで良いと思っています。ある一定の距離感がそこにはあります。また、上下関係を余り感じません。壁を隔てて、お互いに考えを膨らませようといった印象があるからです。

 年に一度、私が幹事役で大学のゼミ同期会をやっています。ギターが得意だった者、長髪を自慢していた青年・・・。今や皆おじさん。その空間でのやり取りは「敬称略」の呼び捨て。垣根も壁もありません。そんな空間にいる自分の顔は、時を超えた学生の顔をしているのでしょう。(第37話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

books

清野裕司氏の書籍はアマゾンページからご購入いただけます。

(写真をクリックしていただくとアマゾンページに移動します)

 

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第14話)

第14話:日本経済と日本企業は別物

 法人税率の高さも我が国経済の地盤沈下を助長してきた。これまで、海外諸国では経済のグローバル化に伴う資本移動の高まりを背景に、国際競争力強化や経済活性化を見据えた法人税率の引き下げが相次いできた。こうした情勢の中で、日本の法人実効税率も漸く2016年度に31.33%まで引き下げられることが決まったが、海外の平均水準と比較すれば依然として5%以上も高い。

 こうした中、法人税率引き下げ競争が激しいEUでは、法人税率引下げと共に法人税収の名目GDPに対する比率が上昇する『法人税パラドックス』と呼ばれる現象が見られている。この成功の要因としては、法人税率引下げと同時に課税ベースの拡大を行ったことや法人成りのインセンティブが働き会社数が増加したこと、更には企業収益が増えて税収が増えたこと、等があげられている。

 また、EU域内を個別に見ても、実効税率がEU平均以下の国とEU平均以上の国の実質GDP成長率を比較すると、実効税率が平均より低い国の実質GDPの伸び率は、高い国より約1%程度高くなっている。

 一方、日本企業はアジアの税制面での魅力に引き付けられるように海外展開を加速させてきた。例えば、タイでは地域統括会社の認定を受ければ法人税率30%を10%に軽減できる。また、スイスでも地域統括会社の法人税率21.17%が5年間5-10%の軽減税率が受けられる。更に中国では、25%の法人税率が適格ハイテク企業の場合に15%に軽減されることになっている。技術立国の日本は、これまで国内で研究開発し、その技術を製品輸出に活かすだけでなく、同時に海外企業から特許料やロイヤリティを受け取る収益モデルに転換してきた。一方、税制面の立ち遅れや規制強化により日本企業の活力が損なわれてきた。

 更に、デフレが長引く中で、日本企業は含み資産経営から脱却すると同時に、利益拡大を優先するスタンスに転じ、人件費の抑制を続けてきた。こうした企業行動の変化も内需の抑制要因となってきた。

 背景には、安価な労働力を大量に供給する新興国企業との競争激化により、世界的に人件費の低下圧力がかかってきたことがある。このため、相対的に賃金水準の高い先進国企業は、海外に現地法人を設立する形で海外進出を行い、国内での雇用者所得が失われてきた。つまり、日本企業が好調であるからといって、日本経済まで好調であるとは限らなくなっており、日本経済と日本企業はもはや別物になりつつあるといえる。人口の減少と経済のグローバル化により、日本企業は経営のグローバル化を進め、更に日本経済から乖離していく可能性が高い。(第15話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第35話)

第35話:「いらっしゃいませ」に心がないと単なる雑音になってしまいます。

 店に一歩入る。「いらっしゃいませ」の元気な声。買わなくてもいいものを、つい余分に買ってしまったり、食べなくてもいいものを、ついつい頼んでしまったり、の経験を持っている人もいるのではないでしょうか。売り手と買い手の、お互いの気を高める起爆の言葉、掛け声として「いらっしゃいませ」があります。

 ところが最近、誰も店に入ってきた様子がないのに、この声が聞かれることがあります。商品を並べていたり、在庫スペースから持ち出しながら勢い込んで、しかも繰り返し「いらっしゃいませ」の声。

 また、語尾を上げた言い方もあります。客の顔を見るなり「いらっしゃいませ~」と語尾が延びて、しかも上がる。本心からの挨拶に聞こえません。

 「いらっしゃいませ」は人が訪ねて来たときの挨拶語です。自分を励ますための掛け声ではありません。私がリサイクルブックのチェーン店で書籍を検索していた時のこと。滞在時間は約30分強、同時間帯の店内客は10名強。その間、それ程の客の出入りはありません。しかし、その間に聞いた「いらっしゃいませ、こんにちは」は何度というより、何百回だったでしょうか。当方は静かに書籍を検索しているのに、そこにノイズが入り込んでくる。「いらっしゃいませ」はもてなし言葉の最初と理解している私にとっては、腹立たしい時間でした。

 何のための言葉なのか。店の売り手には勢いがつくのかも知れません。しかし、買い手である客側は買う気の勢いがそがれることも、心無い言葉にはあることを忘れてはなりません。(第36話に続きます)

kiyonosense2015

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第13話)

第13話:農産物市場開放問題も関係してきた日本の地盤沈下

 日本経済の地盤沈下の裏には、企業の分配構造の変化により、従業員や支払利息への分配率低下と、海外を中心とした設備投資への分配率上昇がみられる中で、内需が低迷してきたという側面もある。

 この背景にも、新興国の台頭を契機とする経済のグローバル化がある。つまり、①製造業の生産拠点や販売市場の国際化、②マネーの国際化による資源高、③株主構成の国際化、といった要因によって輸出企業が景気回復を主導しても賃金が伸び悩み、内需が盛り上がらない構造が影響しているといえる。

 今世紀以降は、先進国と新興国、資源国が相互に依存する形で世界経済が変動してきており、日本経済も海外経済に影響されやすくなっている。そして、日本企業が新たに生産拠点の海外移転や委託、販売市場のグローバル化を進めてきたことも内需低迷の一因となってきた。また、販売の面でも人口減少で伸び悩む国内市場を補うため、企業の海外市場の開拓が進み、企業業績の海外依存度が高まってきた。

 更に海外進出の理由となってきたのが、新興国の人件費の安さや市場の成長期待だけではなく、関税や法人税といった税制面で日本が遅れをとってきたことである。

 近年では、各国のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)による貿易や投資の自由化の進展により、人・物・金・サービス・情報のすべてにわたって、国境を超える移動を妨げる障壁が低くなっている。

 こうした中、日本企業はFTA締結に積極的なASEAN諸国などの生産拠点から輸出を拡張し、日本政府が自由貿易圏の構築に遅れを取る中で製造業の空洞化が着実に進んできた。日本がFTAやEPA交渉で他国に後れを取ってきた原因の一つに、農産品の市場開放問題がある。すなわち、農業従事者の雇用維持や食料自給率低下を防ぐ目的で、一部の品目に高い課税が課されている。しかし、農業では従事者の6割が65歳以上であり、新たな担い手が必要とされているにもかかわらず、他産業に比べて著しく所得が低く、雇用の受け皿としての期待にこたえる将来像が描けていない。一方で、所得向上の一役を担うと期待される大規模で効率的な経営を行う法人の数は増加しているが、その進展は不十分であり、数々の制度問題が農業の効率化を抑制している。このように、日本経済の地盤沈下の背景には、農産物市場開放問題も関係しているといえる。

 従って、一刻も早くJA全中の権限縮小やJA全農の株式会社化等の農業改革を進めるとともに、企業の農地所有の解禁の検討が求められよう。(第14話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第34話)

第34話:"Excuse me”の心で相手を思い遣ることがMarketing心です。

 朝夕の通勤時には、否が応でも人とぶつかってしまいます。流れに乗って歩いていても、つい肩が触れ合うことがあります。そのときの状況のなせることなので、当事者相互は無言のままに目的方面へと向かっていきます。でも、なかには意識的に前に進み行こうとする人がいるもの。「自分の目的地はこの先にある。何とか前の壁をタックルで壊して、少しでも前に行かねば・・・」との想いが働くのでしょうか、猛烈な圧力を人の背中にかけてきます。だが、ひとつの壁を破っても、その先にまた壁がある。再アタックです。それ程急ぐ様子を見ると、今日は何よりも大切なミーティングの約束でもあるのだろうか、と思ってしまいます。

 人は自分ひとりで生きているわけではありません。多くの人との関係があってはじめて、人間の生活が成り立つもの。だからこそ、人の間に存在する「人間」なのです。自分の目的を達成するために、周りの様子を見なくても構わないという考えは成り立ちません。

 自分が何がしかの行為をすることで、他者に迷惑がかかってしまう時には、時に一歩控えめな対応が必要なことがあります。謝るというより、許容して貰うことです。マーケティングでも「パーミッション(許認可)」がキーワードとして語られています。出来上がったものをただ提示して、販売完了にするのではなく、次の段階に進むたび毎に許可を得るスタイルです。

 英語では“Excuse me”だが、日本語には多様な言い回しがあります。「すみません」「ちょっと失礼」「ご無礼致します」「ごめんなさい」。表現よりもその心。この国にあった“Excuse me”の精神は、いつから薄くなってしまったのでしょうか。(第35話に続きます)

kiyonosense2015

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp