清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第29話)

第29話:マーケティングは「とらわれない」思考を求めています。

 マーケティングを学び始めて比較的早く出会う言葉に、Segmentation/Targeting/Positioningがあります。その頭文字から「STP」のフレームと言われます。顧客を細かく分け、自らが取り込みたい顧客を決め、競争上の差別性を明確にする。差別的な優位性を獲得することが何よりもマーケティングにおいて重要なことだと先ずは考えること、と教えられます。

 しかし、その基本の考え方に余りとらわれすぎてしまうと厄介です。どのようなテーマに対しても同じような発想しかしなくなってしまうからです。製品やサービス開発において、先ずは細分化。性・年齢・職業で分けるということから全てが始まると考えてしまうのです。何となくマーケティング的に考え、実行している気分に陥る時かもしれません。

 何も、全てを「S・T・P」の手順で捉えなければならないという規定はありません。過去の分析アプローチにとらわれすぎているに過ぎないのです。

 同じようなことは、日常の生活にも多く見られる。「これは、こうあらねばならない」と規定したとらわれの考え方です。「パンを食べるのは朝食が適しており、夕食にパンを食べるのは不自然だ」などと言う人に出会うことがあります。何故でしょうか?決してそのようなルールがあるわけではありません。夕食の食卓で「シチュー」や「カレー」と共にパンを食べると案外美味しいもの。朝食はパン/夕食は米飯とは、決められたことではなく、何となくそう思い込んでいるからに過ぎません。

 「とらわれる」を漢字で書くと「囚われる」となります。人がある枠組みの中に囲い込まれています。自分の身の回りに、「こうあらねばならない」と囚われの発想に陥っているものはないでしょうか。マーケティング思考では、囚われを打ち破る熱い力を、私はいつも期待しています。(第30話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第7話)

第7話:シュレーダー改革による産業構造の変化

 ドイツのシュレーダー改革に伴う、産業構造の変化を見ると、対GDPでの鉱工業の比率が2002年から2008年にかけて少し上昇し、2013年時点でほぼ25%を維持していることが分かる。鉱工業の雇用数も維持している。これに対し、日本の製造業の比率は、1996年の25%以降、趨勢として減少を続け、2013年には20%まで低下し、雇用者数も減少を続けた。これは日独が明確に異なる点であり、日独の立地競争力の違いを反映している。

 ドイツは、シュレーダー改革を含む政策により立地競争力を高め、国内の製造業シェア維持に成功した。多くの先進国は、経済発展に伴い、1・2次産業シェアの低下と3次産業シェアの増加を示してきた。しかしサービス産業の中でも運輸、卸小売の一部など製造業あってこその産業もある。製造業のシェアをある程度維持しないと、全産業の雇用や賃金に悪影響を及ぼし、経済全体の活力を損なう。

 比較するために米国を見ると、オバマ大統領が輸出倍増計画を掲げ、低下してきた製造業雇用の維持・拡大と、米国内立地の製造業による輸出の拡大を図っている。米国ではリーマンショック後、製造業の雇用者数は減少してきたが、2011年に増加に転じた。その理由は、大胆な金融緩和に伴うドル安傾向、自由貿易協定の拡大・活用、シェール革命によるエネルギーコストの減少などである。同じ理由から、米国では製造業の国内回帰が始まっている。

 また米国やドイツでは、グローバル化や対外直接投資を進めた産業においても国内雇用が増えている。進出先国ごとに異なる会計や法務制度に対応するための、本社での雇用、税務・法務の専門サービス業の雇用の増加などが背景である。

 ドイツの製造業の中で、GDPに占めるシェアが最も伸びているのは自動車産業である。ドイツの製造業製品は、高い性能に加えて、ブランドイメージを確立し、独自性の強い製品作りに成功し、高い利益率を達成している。

 米国ではイノベーションが活発であり、「ゼロ」から製品・サービスを創り出し、高い利益率を享受する例が多い。また、製造や輸出からの収益よりも、海外からの特許収入などが大きい。

 日本とドイツは引き続き自動車や工作機械などモノ作りに強い。日本製品は高性能だが往々にして高価な点が、新興国での市場シェア拡大に不利ではないかと言われてきた。しかし新興国製造品との競争上、日本製品は高級・高価路線を採るのが正しい方向と考える。実際にここ2年の円安基調の中でも日本製品はあまり値下げを行わず、上級・高級イメージを維持する戦略を採っていることからすれば、日本の製造業もドイツに近づきつつあると評価できよう。(第8話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第28話)

第28話:「なり・ふり」をわきまえることもマーケティングの表現です。

 初めて出会った人と会話をするとき、人は相手の何を見てその人となりを見極めていくでしょうか。お互いが知り合うと会話も弾みますが、知らぬ者同士だと、いらぬ気遣いをして会話が終わってから何とは無しの疲労感が残ったりするものです。
 
 ビジネスの慣行として、先ずは名刺交換をしながらお互いの名前と所属を語り合う。自分の担当している職務内容を、かいつまんで説明する。今までのキャリアをとうとうと述べる人もいます。聞いていて疲れてしまいます。そんな時、相手の「なり」を見ることがあります。高価そうなスーツを着込んでいるとか、いかにも不釣合いなネクタイをしている・・・といった見方ではありません。「なり」とは「形」であり「態」です。その人の外観が醸しだしている雰囲気とも理解できます。カタチを見ていると、その人の背景までが読み取れるものです。例え元気そうな顔をしていても、その場に不釣合いな「なり」をしていると、却ってしらけてしまいます。顔は笑っていても、その「なり」からは本心とは思えないといったこともあります。

 あわせて、人は相手の「ふり」も見るもの。どのような振る舞いをするかの、細やかな目線が働きます。「ふり」は「振り」であり「風」です。その時々の対応の姿勢とも解釈できます。たとえ身なりは良くとも、その場の雰囲気にそぐわない態度や行動は、その人の今まで歩んできたキャリアさえ想像させてしまうものです。

 その場で、いかに自分があるべきかを考えられない人は、それこそ「なりふり構わず」勝手な行動をとってしまうことになってしまいます。

 現在のマーケティングは、モノの交換を論ずるだけではなく、人と人、企業と人との関係を論ずるようになってきました。今まで以上に、その場に適合した「なり」と「ふり」が、企業にも個人にも問われる時代なのです。(第29話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第6話)

第6話:国内の企業立地環境を整備したドイツ

 ドイツは2000年以降に、経済連携協定を活用、かつ法人税率を引き下げて、ドイツへの対内直接投資を誘致した。経済連携協定に関しては、2004年、それまで15ケ国だった EU加盟国に、ポーランドやチェコなど中東欧他10ケ国が一気に加わり、25ケ国に増加したことが大きい。ドイツは、モノ・ヒト・カネの自由な域内移動が出来るEUの仕組みを、EU拡大後に一層活かし、経済を活性化した。ドイツに企業立地すれば、EU25ケ国に無関税で輸出できるとして、対内直接投資を誘致した。またドイツは、50%以上だった法人税実効税率を、2000年以降に段階的に30%まで引き下げ、立地競争力の強化を図った。1999年1月の統合通貨ユーロの発足も有利に働いた。ドイツに立地すればユーロ圏との間の輸出入ならば為替リスクがなくなるからである。EUやユーロ圏の他国へ立地しても、無関税や統一通貨の利点は同じだが、ドイツは元々、高い技術力を持ち、他国よりも製造業の競争力があり、優良な人材と部品会社を持っていた。この点で特に製造業の企業立地上、優位となった。

 EU市場統合は、関税撤廃だけでなく、非関税障壁の撤廃も目指してきた。これはドイツの内外直接投資の中身にも反映されており、直近の2012年・2013年の業種別の直接投資を見ると、対外・対内共に専門サービスや情報通信などのサービス業が大きく伸びている。ドイツが市場開放や規制改革を進めて非関税障壁を下げ、競争を促し、結果として立地競争力・国際競争力を高めて来たことが分かる。金額を見ると、ドイツは2012年・2013年の対外直接投資が年6~9兆円規模(ユーロ相場@145換算)、対内直接投資が年1.5~3兆円規模(同@145)であり、対外よりは少ないが、対内直接投資も対外の4分の1ないし3分の1の規模に達している。

 日本の2012年・2013年の対外直接投資が年14~16兆円規模(米ドル相場@120換算)、対内直接投資が年2,100~2,800億円規模(同@120)であり、対内は対外の50から60分の1に留まる。対内直接投資を業種別でみると、ここ2年、日本では卸小売、金融・保険、サービス業などでの外資の撤退が目立つ。日本は、非関税障壁の撤廃や規制緩和を進めないと、このように外資の流出が続くことになりかねない。

 日本向けの対内直接投資が少ない理由を探るため、外資系企業動向調査(経済産業省、2012年度)において、在日外資系企業が日本で事業展開する上で挙げた阻害要因を見ると、最大の理由は「ビジネスコストの高さ」であった。この「ビジネスコスト」の上位は、人件費、税負担、事務所賃料である。ただし円安はこうしたコストの外貨換算上、割安に見せる効果がある。阻害要因の他の項目には、「日本市場の閉鎖性、特殊性」「製品・サービスに対する要求水準の高さ」「人材確保の難しさ」「規制・許認可制度の厳しさ」などが挙げられた。「人材確保難」の中身としては、英語力ある人材の採用難が大きい。非関税障壁撤廃、規制緩和、法人税率引き下げ、英語教育充実などを進めて、こうした阻害要因を減らしていくことが、対内直接投資の拡大のために必要である。(第7話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣