エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第10話)

第10話:エネルギー負担増解決の糸口

 化石燃料を安い値段で調達できるようになれば、企業業績の改善や消費者の消費拡大のみならず、中期的に企業の立地選択や雇用にも大きな効果が及ぶ。そして、海外移転を抑制して深刻な産業空洞化に歯止めをかける期待もあるといえよう。

 日本のLNGの割高感が今後解消に向かえば、コストや環境性の高さから、日本の火力発電は競争力の高い電源となり、発電業が有望な成長産業となる可能性がある。特に、我が国での発電市場を再建するに当たっては、電力制度改革を通じて自由化に耐えうる強い発電市場を日本に築く取り組みも必要である。

 なお、我が国のLNGは電力・ガス会社が個別に調達しており、これが日本のバーゲニングパワーを弱める大きな要因になっている。従って、業界の垣根を越えてLNG調達を一元化することが求められ、一刻も早く購入を一本化することを検討すべきである。すでに、中国や韓国は国を挙げて産ガス国と交渉している。従って、優位に価格交渉を進めるには需要を取りまとめる必要があり、そのためにも共同購入の実施やLNG火力の代替手段の確保をしつつ、日本近海に眠るメタンハイドレートの開発や効率の良い石炭火力の利用も検討すべきであろう。

 特に、石炭のクリーンな活用を目指す技術開発においては、高効率化と共にCO2の分離回収や貯蔵技術の実証研究も進められており、日本は世界の最先端を維持している。中でも、磯子火力発電所の発電端効率は低位発熱量基準で約45%と世界最高水準を誇るのに対して、発電電力量の8割近くを石炭に頼る中国やインドでは同3割程度という水準にとどまる。そして、もし仮に米・中・インドの全石炭火力発電所にこの水準を適用されれば、CO2削減効果は3カ国合計で日本全体のCO2排出量を上回るという試算もある。これは、世界のCO2排出量との関係で見れば、日本の最先端技術を適用することを通じて、世界のCO2排出量の5%分を削減できることになる。

 世界における電力の使用量は今後も増大することが予想されている。従って、世界的に環境問題が叫ばれている観点からも、日本の最先端技術やノウハウを海外に移転することが求められ、今こそオールジャパンで発電効率の向上を図ることを検討すべきであろう。既に、国内では環境への負担が全くない排出量ゼロの石炭火力発電も技術的に不可能ではなくなってきている。これは、CO2排出量を地球規模で削減させるにあたって、日本が果たすべき重要な国際貢献があることを意味する。それを実現するためにも、政府は排ガスからCO2を取り出して地中や海底に埋める技術と合わせつつ、石炭火力発電技術の世界への売込みを今以上に進めるべきであろう。(第11話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第31話)

第31話:「四季」を感じる感性が、暮らしの文化を育んできたのですが。

 わが国の文化を言い表わす言葉に「四季折々の・・・」「四季が織りなす・・・」といった言葉があります。というよりも「ありました」と過去形で語る方が正しいかもしれません。漫然と過ぎ去るような時の流れにあってもなお、時々の季候の移り変わりを通して、きめ細やかな感性を育んできました。消費購買行動においても、暑さ、寒さに備えることで、生活の知恵を高めてきました。その時々の享楽のための消費は昔からもありましたが、そうした目の前のことよりも、これから起こることへの対応であり備えです。季節の変化が、消費行動を規定するひとつの要因として存在していました。しかし、このような変節が成り立たなくなって来たように思われます。

 凍える手に、はぁはぁと息を吹きかけながら、身体を丸めて歩く姿を全く見ることのない冬になってしまいました。マスクをかけている人の姿を見かけますが、防寒というよりも、花粉症対策のことがあります。暖冬の影響で花粉も早く舞い散ってしまうのでしょうか。暖かい日が続けば防寒用の衣料を買う必然性がなくなってしまいます。

 衣料品の分野での季節感は、女性の場合には非常に細やかに分かれていました。春夏秋冬は勿論、これに加えて「梅春」といった言葉で、何となく冬と春の感覚をブリッジしたものです。女性の繊細なファッション感覚に呼応するような細分化です。一方男性の方はといえば、あっさりしたもので、春夏物と秋冬物といった分類で、暑い時と寒い時の二分割です。それでもなお、春らしいモノとか秋を感じるモノといった評価語がありました。

 ここ数年は、一年の季節を「二季」で語ってしまう陽気です。冬は冬らしく寒く、夏は夏らしく暑い。その変化に細やかに対応することで暮らしの知恵が育まれてきたのですが・・・。一年が「二季」では、大雑把な感性がわが国に蔓延してしまいそうで、気になってしまいます。(第32話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
Eメール: maps@mapscom.co.jp
URL: http://www.mapscom.co.jp

エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第9話)

第9話:エネルギー政策がマクロ経済に与える影響

 2011年3月の原発事故以降、火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)の輸入が急増し、貿易赤字の主因となっている。この背景には、日本がLNGを「ジャパンプレミアム」と呼ばれる高値で購入していることがある。事実、原発事故前は3兆円台だったLNG輸入額が2013年以降は7兆円を超えている。

 こうした中、日本のLNG輸入価格に影響を与える可能性があるのが、米国のシェールガス革命である。近年、米国では天然ガスへのシフトが進行している。硬い頁岩(けつがん)中のガスや石油を採取できる技術により生産量が飛躍的に伸びており、米国の天然ガス価格は100万BTU(英熱量単位)当たり3ドル程度である。仮に、液化と日本への輸送単価6ドルを足したとしても、日本が輸入している天然ガス単価の約16ドルよりも7ドル程度も安くなる。

 このため、米国で増産が進むシェールガスの存在からLNGの価格が下がる期待があり、価格面でも注目すべき材料となろう。将来、日本が北米等から直接買い付けることができれば、シェールガスの生産急増により化石燃料全体の価格を抑制する効果が期待される。更に、世界レベルで見て十分な供給があれば、原子力発電所の停止によって高い価格でLNGを買わざるを得ないジャパンプレミアムのような事態も解消されやすくなる。

 一方、日本の最先端技術によって脚光を浴びているのが、石炭火力発電である。石炭は北米や欧州など政情安定国を中心に世界中に広く分布しており、安価で安定的に入手可能なことから、未だに世界全体の発電量の4割を占めている。また、日本の石炭火力発電効率は平均4割以上の効率があるのに対して、新興国等では3割を下回っている国もある。こうした世界トップレベルにある日本の技術と共に、安定供給で安価なこともあり、日本経済の成長力に貢献することが期待されている。将来、日本が電気料金を安く抑えることができれば、電気代や安くなった分を他の投資に回すことにより経済成長につながる効果が期待される。更に、石炭は様々な地域から調達できることから、LNGのジャパンプレミアム事態も解消されやすくなる。

 2013年度実績においても、日本が1キロワットの発電をする場合、石炭では5円程度かかるが、それでも現在のLNG燃料単価の約13円に比べて6割ほど安くて済む。石炭は世界全体で産出でき、安定調達しやすいため、コストの高い原油に代わって常時稼動する主力電源として期待されている。

 日本でLNG価格を引き下げるには、LNGの輸入源と調達方法を多様化する必要があろう。現状、日本がシェールガスを輸入する場合、ガスを液化する費用や関税がかかるが、それでも現在のLNG価格に比べて2~4割ほど安くて済む。

 一方、日本で燃料費を抑制する策の一つとして、石炭火力発電の推進も有効といえる。石炭火力の新増設が可能となれば、LNG火力への集中を避けることが出来、貿易収支の改善にも繋がることは確かである。(第10話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く (第30話)

第30話:マーケティングは「しめる」志と行動を忘れないことです。

 人が出会って握手をする。その折に、お互いを認め合い、親密度が高ければ、それだけ握る手に力がこもって、まさに「締める」状況になると言います。

 「しめる」のは、力の掛かり方でもあります。愛しい子どもを親は「抱きしめる」でしょう。めったに口にする機会にめぐり合わない食べ物は、この時とばかりに「噛みしめ」て味わおうとします。新しい道なき道に入り込めば、一歩一歩を「踏みしめ」ながら進み行く姿勢を見せるはず。そこには、人がある目的に向かって、しっかりと力を込めて邁進する、雄々しい姿すら感じさせるものです。

 しかし、どうも最近の社会の風に「しまり」がないように感じます。力強さを実感する場面に乏しいのです。何となく、柔らかに手を結ぶような関係に出会います。一度決まった提携話が、お互いの利害再調整の結果、水に流れてしまうようなケース。お互いのトップは、しっかりと相手の目を見て、その手を握りしめたのでしょうか。親のいうことを聞かないからと、感情的な幼児虐待を繰り返してしまう親。わが子を、しっかりとその胸に抱きしめることをしたのでしょうか。噛みしめようにも、端から細かく刻まれた肉や野菜を食することが多くなった現代人にとっては、味を噛みしめる機会も乏しくなったかもしれません。一時流行った、厚底靴をはく若者には、地面を自らの足で踏みしめている感覚は育ち得ないかもしれません。

 関係性マーケティングが言われる現在の環境にあっては、改めて顧客との力強い絆を結ぶことが求められています。企業は、顧客一人ひとりと、どれほどの力を込めて、その手を握りしめているのだろうか。気をひきしめて、今一度自問自答してみたいと思います。(第31話に続きます)

清野 裕司 氏
清野 裕司 氏

株式会社マップス 代表取締役 清野 裕司
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エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第8話)

第8話:日本の成長戦略におけるドイツの示唆

 日本の成長戦略の内、法人税改革では、実効税率を数年で20%台にすること、企業統治改革では、企業統治の指針「コーポレートガバナンスコード」の策定、機関投資家向けの「スチュワードシップ・コード」の普及促進を挙げている。

 人口に関しては、当面の出生率目標として1.8人を掲げている。ただし移民政策には触れていない。女性の就労促進に関しては、学童保育受入れ枠の拡大などを目指す。女性を対象とする調査によれば、約3百万人が、育児などでの障害がクリアされれば働きたいとの結果を示しており、潜在的労働力として大きな存在である。

 雇用、医療、農業分野での岩盤規制改革の内、農業の潜在成長性は高いとみられる。企業による農地所有が5年後に解禁され、企業的な農業生産が増えると、農業の生産性の向上が期待される。例えばオランダは、九州程度の国土面積だが、ITを駆使した生産性の高い農業生産により野菜や花を生産し、年間8兆円を輸出している。日本の農業品輸出は年間5,000億円に留まっている。

 エネルギー分野では、高価になりすぎた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の見直しを検討する必要がある。ドイツは脱原発を掲げたが、実際には電力供給を確保しながら徐々に原発を止めている。フランスなど近隣国から電力を購入する体制も整えてある。観光分野では年間の来日外国人観光客数を2020年までに20百万人とする目標を掲げている。ドイツは年間30百万人である。人口が2.5億人のインドネシアなどからの観光客誘致が今後期待できる。いずれ中国と人口が逆転するインドも期待できる。現状、インドからの来日客は年間7万人にすぎない。例えば欧州各国が、インド映画の撮影を自国に誘致し、その映画を観たインド人が撮影地を訪ねるため観光客として来訪するという好循環を生み出している点は、日本にも参考になる。

 結局、日本もドイツも高齢化し、人件費は高い。移民による労働力確保、または、製造業の高度化が生き残る道といえよう。ドイツは移民労働力を導入した。また、積極的に誘致した対内直接投資の中身は研究開発部門が多い。つまり研究者など高度人材も取り込み、製品開発力を高めた。日本がアジアのドイツになるつもりならば、ある程度の移民の受け入れや、対内直接投資の積極導入を考えるべきではないか。

 一方、今日のドイツの負の側面、見習わない方がよい側面としては、ユーロ圏がデフレ化するリスクが増しているのに、ドイツは財政支出拡大や金融緩和に消極的なことである。リーマンショック後、米国は巨額の財政刺激と量的金融緩和に踏み切り、米国や世界が景気後退に陥るのを防いだ。今日のドイツにも期待される役割である。(第9話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣