清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第8話)

第8話:「そくど」が競争の要素になっている

 それ程急ぐ必要があるのかと思わせるような時の中で、現代の生活は成り立っているようです。駅頭で出会う人の群れに見る顔の多くは、常に前を急ぐような切迫した顔です。階段に差し掛かると、前に人の群れがあるにも関わらず、われ先にと前方に圧力を掛けて、何とか道を開こうとする人もいます。それ程の「速度」が日常性の中に求められているのだろうかと、疑問が浮かぶ自分自身も、雑踏の中で、先を行こうと必死になっていることがあります。

 人を押しのけてまで前に進むための「速さ」だけではなく、何事も早く終えるための仕組みが模索されています。製造から販売に至るプロセスの短縮化によって、販売展開のスピードを高めようとする動きがあります。速度が競争を優位に進める鍵のように語られているのです。しかし、速さは決してそのプロセスの速さだけではありません。即応力も問われるのです。「速度」プラス「即度」でしょう。いかに素早く反応するかの能力と置き換えることが出来ます。あるものを、限られた期日までに完成させねばならない状況の折に、完成させるプロセスの速さはもちろんですが、それ以上に、いつまでに完成が見込まれるのかという読みを、即解答し得るかどうかの能力です。

 顧客から、いつまでに商品の納入が可能かといった問い合わせがあった際に、納期を短縮することは必要ですが、それ以上に、可能な期限を即答できる体制を持ち得るかどうかが鍵になります。そのためには、日常的に自分自身の業務内容に限らず、部門内やチーム内の状況、情報が共有されていなければ、その対応はできなくなってしまいます。営業活動においては特に、顧客への反応の早さ自体が、競争する上での差別化の根本になることがあります。

 われわれは今、確かに時の速い流れの中で日常生活を送っています。しかし、そこでの「はやさ」とは「速度=段取りの能力」と「即度=反応する能力」の両面があることを忘れてはなりません。(第9話に続く)

株式会社マップス  代表取締役 清野 裕司
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第7話)

第7話:「分析」だけでは未来が描けません

 マーケティングの実践には「分析力」が重要である、という声をよく耳にします。市場の変化から新たなビジネスチャンスを発見しよういう掛け声も再三聞こえてきます。言葉では理解できるのですが、新たな機会がそうやすやすと見つかるものではありません。確かに、さまざまな変化を見るにあたって、大きく全体をつかまえることはなかなか難しいものです。顧客の好みや評価の声を分析する、といった時には、先ずは細かく分ける作業からはじめます。「顧客細分化」という言葉で説明されます。世の中の動きは、顧客の変化だけではなく、競争相手も動いています。そこで、業界の動きを細かく分類して、個々の変化を見ようとします。業界分析や競合分析といわれる分析です。

 細かく分けた状況について数値や事実を並べると、何となく自分なりに納得をしてしまい、これで「分析」は出来たと思ってしまう人もいるようです。しかしそれは、単にある状況を整理したに過ぎません。細やかに分けることは、作業の効率を高めることにはなりますが、「部分最適」を求めていることになってしまいます。マーケティングで必要なことは、市場全体が今どのように動いているのかという「全体最適」を考えることが求められます。

 「分析」と対になる視点が必要です。「分析」の反対語は何でしょうか?なかなか浮かんでこない言葉の一つではないでしょうか。

 そもそも、反対語を思い浮かべるのも案外難しいもの。小学生の頃に、「高い」の反対語は何かという問いに対して、「低い」と答えた者と「安い」と答えた者で教室が二分されたことがあります。共に正解です。であれば・・・、「分析」の反対は。実は「総合」です。

 細かく分けたならば、今度はそれらを統合して総合的に見ること。マーケティングの実践にはこの両面の見方が求められているのです。

(第8話に続きます)

株式会社マップス  代表取締役 清野 裕司
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第6話)

第6話:マーケティングは未来への物語を組み立てるガイド役

 現在は「経験経済」の時代といわれることがあります。商品やサービスの評価基準に影響を及ぼすのは、何事も顧客の経験が決め手になることをいいます。しかも、個人個人が持つ経験は異なっています。ある商品に対する思い入れも異なります。その人が生きてきた時代の環境が異なるからです。また同じような時代環境に生きたとしても、個人の感性による感じ方や接し方によって経験の深さが異なってきます。

 さらに時間が経過してくると、その体験が自分自身の物語になっていきます。直接に触れたことや見たこと、食べたもの、購入した場所や、その折の自分自身の感情が、経験談の脚色に花を添えることになるでしょう。

 場合によっては、小さな話が大きな話へと成長していくこともあります。実は自分自身の体験ではない他人から聞いた話が、自分の物語の中に入ってくることもあります。そして、一人一人の物語は終わることなく広がっていきます。子どもの時に食べた飴一つが、さながらダイヤモンドのような輝きを持ったモノになって主役を演じること。家族旅行のときに見た景勝地の景色。友人と過ごした学生時代の小旅行。そのような個人の体験は、物語のテーマでもあります。今自分の前にあるモノを判断する尺度は、実はそれまでに積み重ねた自らの経験がベースになった物語が基本になっているのです。

 日常の生活だけではなく、会社経営においても同じことが言えそうです。過去の自らの意思決定や戦略の設計など、その成果が今の会社の姿になっているのです。ということは、今の想いが2年後、3年後の会社のあり方を決めます。過去の経営判断に過ちが無かったかどうか、今の会社の実体が知らせています。多くの経験と、未来に対する想いの深い人は、長編小説以上の物語を語ってくれます。マーケティングは、過去を含めて未来の姿を夢想して語るストーリーを組み立てるガイド役でもあるのです。(第7話に続きます)

株式会社マップス  代表取締役 清野 裕司
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清野裕司のマーケティング・コラム/風を聴く(第5話)

第5話:相手を思い遣る心こそがマーケティング思考

 マーケティングが日本の産業界に紹介されたのは1955年と言われています。既に60年近い時が流れました。その間の日本経済の変遷と共にマーケティング自体も変化・進化の道を辿ってきました。今も、人によってさまざまなマーケティングの解釈がされるのも、それだけ時代環境変化に敏感に反応しつつ発展をして来たからともいえます。販売支援型のマーケティング、流通形態対応型、広告優位型・・・。その一つひとつに、今までの日本経済の歩みそのものにも似た動きをみることが出来ます。

 60年代から70年代のマーケティングは、「つくる」ことに主眼を置いたものでした。モノ不足の時代に始まり、モノをいかに大量につくり、大量に届けるかと、企業の経営もモノ主導型発想に主眼が置かれました。効率的なモノづくりをリードして、販売を円滑にする手段として、マーケティングは拡大成長のガイド役を果たしました。

 80年代のマーケティングは、「伝える」ことに主眼が置かれていました。多くのモノやサービスが、高い品質を維持してつくられる環境で、自らの差別性をいかに理解してもらうか。広告のコピー1行を書くのに何千万円といったコピーライターが、社会的にも認知され注目されていた頃です。

 時流れて90年代以降、特に21世紀に入ってから、マーケティングは一段と企業経営の根幹的な位置づけで語られるようになっています。一方的に企業サイドの論理だけではなく、顧客の真の想いを辿りながら、必要とされるものを一緒に「生み出し」無駄のない経済活動を進めようとする考え方です。「顧客主導」の発想。「つくる-つかう」「伝える-聞く」の対極的な考えではなく、「共に生み出す」考え方です。

 マーケティングの今日のテーマは、自らの相手を今まで以上に思いやる幅広いものへと拡張し、過去を分析することに止まらず、未来を語る役割までが求められているのです。(第6話に続きます)

株式会社マップス  代表取締役 清野 裕司
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