エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第99話)

第99話:正しい消費者物価の見方

 家計が消費するモノやサービスの価格を指数化した総務省の「消費者物価指数(CPI)」は、日本で最も代表的な物価統計である。しかし、我が国では消費者物価指数の動きが経済活動と乖離しているとの指摘が多い。この理由として、消費者物価指数の、①経済活動の需給と関係ない非市場取引を含む、②パソコンやカメラの時価に品質調整を施す―などの点が経済活動との乖離をもたらすことが指摘されている。

 消費者物価指数では、賃貸と自己所有の居住活動を整合的に捉えるため、自己所有の家でも家賃を払う想定で架空の帰属家賃を計上する。さらに、需給とは全く関係ない公共料金も計上される。

 実際、財・サービス分類別の消費者物価指数をみると、サービスが上昇傾向にあるのに対し、持家の帰属家賃や公共料金は下落傾向にある。つまり、昨年夏以降の生鮮食品を除いたコアCPIの下落は非市場取引価格の下落が寄与しており、これが経済活動との乖離を生み出している。

 また、消費者物価指数では、品質向上が著しく製品サイクルが極めて短いパソコンやカメラについて、品質調整済みの価格変動をヘドニック法により求める方法を採用しており、こうした調整も経済活動との乖離をもたらしている。ヘドニック法とは、例えばパソコンのHDD記憶容量が1TB増えたとき本体価格は5%上昇するという関係が推計できた場合、HDD記憶容量が1TB増えた新製品が出れば、実際のパソコン本体価格を5%割り引いて価格を比較するとみなす統計処理である。つまり、パソコンの値段が変わらなくても、HDD記憶容量が1TB増えれば、消費者物価指数では価格が5%下がったと計上される。

 しかし、向上したパソコンの機能をすべて使いこなしている利用者はどれだけいるだろうか。利用者が活用しきれていない品質向上の分は、需要側からみれば架空の価格下落にすぎない。従って、品質調整も含んだ消費者物価指数のインフレ率は現実よりも過小推計され、需給と合わない一因になっている可能性がある。

 以上の理由から、消費者物価指数と現実の経済活動との間には大きなギャップがある。実際、コアCPIインフレ率は2015年7月からマイナス傾向にあるが、非市場取引部分を簡便的に除去したコア市場取引CPIのインフレ率をみると、コアCPIインフレ率がマイナスの間もプラス傾向を維持している。つまり、小売り段階での需給はコアCPIインフレ率の下落が示すほど緩んでおらず、こうしたコア市場取引CPIの動向を加味すれば、コアCPIの下落は非市場取引の下落に起因する側面が大きく、実際のところ小売り段階での物価は下がっていない可能性がある。(第100話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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