エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第96話)

第96話:経済統計の抜本的改革案

 前回、GDP統計の問題点の改革案について指摘したが、最もシンプルで根本的な対応は、振れの原因となっている法人企業統計季報を基礎統計として採用することを取りやめることであろう。家計調査や法人企業統計に代表されるような需要側統計の採用を取りやめ、生産関連など供給側統計を中心とした推計に切り替えることは、元々供給側統計を中心に推計されている確報との整合性を高めることにもつながる。さらに、実質GDP成長率の四半期ごとの変動のブレを小さくすることにもつながることが期待される。法人企業統計とならんで需要側統計の代表格である家計調査が成長率のブレの一因になっているとの意見が民間エコノミストの中でも強い。このように、供給側統計中心の推計に一本化することは早急な対応が求められる。さらに、需要側推計値と供給側推計値の早期公表も望みたい。

 また、一次統計で圧倒的に不十分な分野に、速報性の向上がある。我が国の統計は他の先進国、特に米国等と比べて全般的に調査結果の公表が遅く、公表までに時間がかかるとの批判が多い。こうしたことは、企業の経営判断や政府の迅速な経済情勢の把握を妨げ、適切な政策運営の障害となる。特に、景気関連統計には速報性が求められるものが多いことからすれば、集計の迅速化や作成方法の改善等によって、できる限り公表を前倒しする必要があろう。

 結局、経済社会の急速な構造変化が進む中、既存の統計手法が変化に適切に対応しきれず、統計と経済実態とのズレが顕著となっているが、こうした変化への対応の遅れは経済主体の意思決定の質を低下させる恐れがある。従って、統計が経済社会の変化を的確に反映した情報を提供するよう不断の見直しが求められる。

 更に、統計の国際比較の改善も求められ、特に時系列での比較可能性を高める工夫が必要であろう。同時に、各種統計が多数の省庁により実施されているため、統計の整合性や利便性の面で問題が生じるケースも多く、経済統計の一元化管理を進める必要がある。併せて、政府の有する統計情報の公開を一層推進し、透明性を高めていくことも重要である。

 なお、経済統計の改善を図っていく上では、個別の問題点の対応だけでなく、統計作成にあたる組織や予算面を含めた統計行政の抜本的見直しが必要となろう。主要な経済統計については、企画・立案面でも可能な限り集中化することが合理的と考えられる。そして、経済統計の企画・立案が集中化されれば、多くの省庁にまたがる所轄業種の垣根にとらわれない横断的・整合的な統計整備が可能となり、統計調査の重複排除にもつながると考えられる。

 経済社会のグローバル化・IT 化や、企業組織形勢の多様化などが進むに伴って、経済実態を把握する上での経済統計の役割はますます重要となっており、経済運営に当たっても、信頼できる経済統計による現状把握が不可欠である。従って、現在の厳しい財政事情の下においても、統計予算全体の拡充も検討されるべきである。(第97話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

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