エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第86話)

第86話:TPP批准と米国の貿易政策はどう変わる

 TPP絶対反対のトランプ政権になれば、米国の批准はかなり厳しいと考えられる。一方、クリントン政権になった場合には、TPPの枠組みについてさらに修正を加え、新しい条件を出してくる可能性が高く、TPPの署名と発効は長引くことが予想される。

 TPP加盟国の中で米国経済が占めるGDP比率は65%とかなり大きい。一般的なTPPは、太平洋の経済連携を含む貿易とか通商政策的な位置付けで捉えられている。ただし、もうすこし大きな枠組みとしては、中国の暴走を抑止する位置付けが重要だと考えられる。

 このため、米国がTPPから抜けた場合には、ASEANは中国に取り込まれていく可能性がある。一方でASEANは中国に対して、南沙諸島の問題等を抱えている状況を考えると、一方的に中国になびいてしまうということも考えにくい。

 一方、中国には、AIIBの枠組みがあり、ASEAN地域の開発援助でも AIIBが大きなプレゼンスを示していく傾向は高まると考えられる。世界的に長期停滞論のような状況になっている中で、数少ない成長期待ができる市場として、新興国のインフラ整備というテーマがあるためである。

 当然日本もアジアの成長は取り込みたいと考えている。ただし、TPPが機能しなくなれば、中国側に相当部分を持って行かれてしまう可能性がある。そうなれば、インフラ関係では安全性や環境面での問題が危惧される。環境面での配慮も日本に比べると少ない可能性があり、それは世界にとって不幸なことだと感がられる。

 他方、米国貿易政策については、トランプが主張する高い関税や自国産業を保護することは一見良さそうな政策に見える。しかし国際経済論的に考えれば、こうした政策を進めることは結果としてマイナスの効果を生み出す。得意な自国の産業を伸ばし、そうでないものは海外から輸入をするという自由化政策を推し進めた方が、グローバル経済の拡大という意味ではプラスとなるためである。

 逆に最大の経済大国である米国が保護貿易に走ってしまえば、世界経済の停滞を通じて自国経済にネガティブな影響が出ることになり、由々しき状況になると考えられる。

 このため、トランプが国内産業を保護する政策を推し進めた場合、輸出で稼いできた日本の産業界への影響は大きい。日本では、TPP締結で一番恩恵を受ける産業が自動車産業であるため、自動車産業には一転して逆風が吹く。自動車産業は日本経済の屋台骨を支えていることからすれば、日本経済全体としても相当厳しい状況が考えられる。

 一方のクリントンは、アメリカ国内の雇用問題にネガティブな影響が出ない範囲において雇用を重視する考えである。米国経済全体で考えると、自動車産業は全体のシェアからするとその比率は下がってきている。ただし、今後も雇用問題への影響は出かねず、そうした産業界や労働団体からの圧力もある。従って、クリントンが大統領になっても、今のTPPの枠組みよりもさらに有利な条件での貿易政策になるとは考えにくいと思われる。(第87話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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