エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第79話)

第79話:円独歩高の敗者・日本の悲劇

 筆者は、先進国で富裕層と中間層以下の格差が広がってきた理由は、経済のグローバル化が進んだことと見ている。事実、東西冷戦の終結により資本主義国と社会主義国を分断していた市場の垣根が無くなると、先進国は新興国の安い労働力が使えるようになり、先進国は挙って新興国に工場を作る等して、資本を新興国に移していった。

 一方、新興国は安い労働力を提供できたため、それによって新興国の人々は働く機会を得ることができ、かつ市場経済にアクセスできるようになった。そうした状況下で、先進国と新興国の格差が縮小する圧力がかかった。

 このように、先進国と新興国の市場が一体化すると、それまで先進国の中低所得層が担ってきた仕事は新興国の安い賃金の労働者に委ねられるようになる。すると先進国の中低所得層の賃金は下落圧力がかかり、先進国内では格差が広がる。つまり、先進国と新興国の格差が縮まる一方で国内の格差が広がることは、経済のグローバル化の中で必然である。

 そして経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適な立地に動く。そうなると、マクロ的には出来るだけ中低所得者層の雇用機会や所得を確保するような政策が重要性を増し、通貨政策面では自国通貨を下げ、自国のブルーカラーやサービスの仕事を確保する方向に動く。その結果、製造業や観光産業等の競争が有利になる通貨安競争が広がる。

 こうした中、英国で思わぬEU離脱でポンド安になり、ユーロも連れ安、米国も早期の利上げ困難の観測で円独歩高となったのは、米ドル金利が下落する中、既にマイナス金利を導入している日本との金利差が縮小したことが主因と考えている。

 一般的に指摘されるのが安全通貨説である。すなわち、インフレ率が他国に比べて低く通貨価値が下がりにくいだけでなく、巨額の外貨準備や経常黒字により対外支払い余力があり、国債の9割以上が国内で消化されていること等から相対的に安全とする説である。

 しかし、日本以外の国々でも、思わぬEU離脱によりリスク資産の株等から安全資産の債券等に資金シフトは発生している。このため、世界的な国債への資金シフトが長期金利の低下をもたらし、これが通貨安に影響を及ぼしたと考えられ、相対的な安全性を根拠とした通貨安とは言い切れない面がある。一方で、すでにマイナス金利導入で長期金利もマイナス圏にある日本では、更なる金利の低下余地が少ないため、市場がリスクオフに動いたとしても、長期金利がプラスの諸外国に比べ長期金利の低下余地は少ない。このため、諸外国との金利差縮小が円独歩高に結びついていると推察される。

 以上をまとめると、英国の国民投票で下された思わぬEU離脱は日本にとって耐えられない円高をもたらしたが、これは通貨価値の安定で相対的な安全性が高いとする安全通貨説というよりも、先行き不安による市場のリスクオフを経て、世界の長期金利低下が寄与したものといえる。翻って日本の現状を考えると、長期金利はマイナス圏内にあり、その低下余地は非常に乏しい。つまり、諸外国に比べて通貨政策の余地が少ないとみなされていることが円高をもたらしており、デフレ克服を困難にしているといえる。(第80話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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