エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第64話)

第64話:「マイナス金利」は我々にどんな影響を及ぼすのか?

 今年1月、日銀はマイナス金利の導入を決めた。これまで日銀は、金融機関が保有する国債を購入することで市中に回るお金の量を増やそうとしてきた。いわゆる「量的質的金融緩和」である。ただ、すでに日銀は日本にある国債の3分の1を持っている状況である。このまま永遠に買い続けることは難しくなるため、量的質的緩和に対するマーケットの期待は徐々に薄らいできた。その手詰まり感を解消しようとしたのがマイナス金利である。

 マイナス金利というと、我々が銀行に預けている預金にマイナスの金利がついて、逆に銀行に利息を支払わなくてはいけないと考える向きもある。しかし、それは早計である。マイナス金利が適用されるのは、銀行が日銀に預けている当座預金の一部である。

 銀行は、預金者から預かっているお金の一部を「法定準備預金」として日銀の当座預金に預けている。また、日銀は量的質的緩和によって、銀行が保有している国債を大量に購入している。銀行には国債を売った代金が入るが、0.1%の金利がつく日銀の当座預金にとりあえず預けている。そうして膨らんだ当座預金が現在、約260兆円ある。

 日銀が銀行の持つ国債を購入するのは、銀行に流通現金を持たせて企業や個人への貸し出しや投資を増やすためである。しかし、日銀がいくら国債を買っても、資金が当座預金に眠ったままになっていては不十分。そこで今回、日銀は当座預金の一部にマイナス金利をつけることにした。当座預金に預けたままでは手数料を取られて損をするため、貸出先や投資先を積極的に見つけて貸し出しや投資を増やすべきというわけである。

 しかし、これには日銀の別の思惑もある。それは、「円高阻止」である。為替はさまざまな要因で決まる。中でも影響が大きいのは2国間の金利差である。金利の高い国と低い国があれば、高い国で預けたほうが利息を多くもらえるため、金利の高い国の通貨が買われる。仮にアメリカの金利が変わらず、日本の金利が下がれば、ドルを持つほうが得なためドルが買われて円安に動く。円安になればグローバル企業の連結決算の利益が増え、株価も上がる。日銀がマイナス金利を導入した狙いはここにある。

 思惑どおりにいかなかったのは、タイミングが悪かったからである。マイナス金利導入を決めたのは、中国経済の失速、原油安などが重なって、世界経済の不透明感が増していた時期である。世界経済の不透明感が増すと、リスク資産である株より安全資産の債券にお金が流れる。国債が買われて価格が上がると、逆に国債の金利は下がる。このとき日米の国債金利が同じだけ下がれば問題ないが、日本国債の長期金利はもともとゼロに近いため、アメリカ国債に比べて金利の下げ幅は小さく、日米の金利差は縮まった。それが円を買う動きにつながり、円高株安を招いた。

 マイナス金利の導入だけなら、円安株高に動く。しかし今回はその効果を相殺して余りあるほど世界経済の不透明感が強かった。いま足元では、世界経済の不透明感が払拭されつつある。このため、これからマイナス金利の効果が徐々に顕在化してくるはずである。(第65話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

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投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

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