エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第55話)

第55話:中小企業はTPPをどうとらえるべきか

 現在、我が国製造業の出荷額の約4分の3は中堅・中小企業によるものとなっている。そして、2014年の通商白書によれば、EPAを利用する企業に占める中小企業の比率は年々上昇しており、2013年度以降は7割を上回っている。特に地域別では、近畿や関東の中小企業の比率が高いことがわかる。このように、わが国経済活動の大きな部分を占める中堅・中小企業はこれまでも積極的に海外に展開していることがわかる。

 こうした中、昨年10月に大筋合意したTPPは、中小企業が積極的な海外展開により、従来以上に攻めの経営に転換できる可能性を秘めているととらえるべきだろう。事実、TPP協定交渉参加国が2014年の世界GDPに占める割合をみると、米国の22.3%を筆頭に、日本の5.9%、カナダの2.3%、オーストラリアの1.8%、メキシコの1.6%を中心に世界のGDPの36.3%を占める。また、2014年の日本の輸出に占めるTPP協定交渉参加国の割合をみても、米国の18.6%を筆頭に、シンガポールの3.0%、マレーシアの2.1%、ベトナムの1.7%、メキシコの1.5%、カナダの1.2%を中心にわが国からの輸出額の30.9%を占める。

 更に、TPPは関税撤廃のみならず、原産地規則における「累積ルール」の導入や、投資・サービスの自由化、模倣品対策の強化、電子商取引など新しい分野でのルール整備など、幅広い分野で中堅・中小企業にとってメリットがある内容を盛り込んでいる。こうしたこともあり、TPP関連政策大綱公表後の2015年11月下旬~12月上旬に実施された日刊工業新聞のアンケート調査によれば、交渉の合意内容について全体の8割以上が「評価する」と歓迎していることがわかる。しかしその一方で、経営への恩恵を期待する見方は約半数にとどまっており、事業への影響が見通せない状況が浮き彫りとなっている。従って、TPPの恩恵はこれまで海外展開に踏み切れなかった地方の中小企業にこそ幅広く及ぶことから、政府は中小企業の海外展開支援を強化すべく、事業上の利点を具体的に示すこと等、きめ細かな政策対応が求められよう。

 なお、TPPは関税撤廃のみならず、投資ルールの明確化や知的財産の保護、関税手続きの迅速化等、見込まれる効果は多岐に渡るが、先の日刊工業新聞のアンケート調査によれば、期待が大きい項目としては「関税手続きの迅速化」と「工業製品の関税撤廃」が51%、サプライチェーンの拡大につながる「原産地規則の完全累積制度の実現」が24%、「政府調達市場の開放」が16%、「投資・サービスの自由化」が13%となっている。一方、政府は経済連携協定になじみのない事業者や貿易実務に不慣れな企業を支えるために、全国規模で支援体制を強化する方針だが、日刊工業新聞のアンケート調査によれば、約4割がほとんど知らないと回答している。従って、行政機関の告知活動もさることながら、とりわけ経営資源が限られる中小企業にTPP活用を促すには、経営者と日常的な接点の深い金融機関や産業支援機関がTPPの内容を正しく理解し、支援先の成長戦略につなげられるよう支援側の人材育成の視点も欠かせないだろう。(第56話に続きます)

 

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所

経済調査部 主席エコノミスト

永濱利廣

 

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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