エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第5話)

第5話:日本企業が直面する六重苦とドイツの比較

 日本経済が長期停滞した大きな原因のひとつは、ビジネスを巡る環境が、外国に比べると悪かったことにある。ドイツは日本と同様、人口は減少傾向にあるが、近年着実な経済成長を実現している。ドイツは2000年代以降、プロビジネスの視点から政府当局が積極的な政策を講じてきた。経済成長の源泉は企業活動にあるゆえ、プロビジネス政策のドイツは成長し、日本は停滞する結果になった。

 ドイツの経常黒字は2000年以降に急拡大したが、その大半を占めるのは、2000年以降に順調に拡大した貿易黒字である。2004年に実現したEUへの中東欧10ケ国加入後、ドイツの貿易黒字基調は定着した。また、ドイツでは2004年以降、対外直接投資が急拡大した。2001~2004年の間、GDP比 30%程度で不変だった対外直接投資残高は、2013年には60%近くまで増加した。この間に中東欧や新興国への投資が増加し、このような直接投資先の現地法人に対して、ドイツから部品・部材や生産機械・設備の輸出が増え、これがドイツの貿易黒字を増やした。

 日本の貿易収支は2011年以降、赤字に転じた。要因には、原発停止に伴う化石燃料の輸入増加に加え、例えば携帯電話機など電気製品の輸入の急増がある。最近の日本の経常収支黒字を支えるのは、海外から受け取る金利や配当などの所得収支黒字である。

 ドイツの直接投資は1990年代までは少なかったが2000年代に急増した。しかも、対外・対内直接投資のいずれもが増加した。

 日本の対外直接投資は2005年以降、順調に増加しているが、対GDP比の累積残高はドイツよりはるかに少ない。また、ドイツと大きく異なるのは、対内直接投資が著しく少ない点であり、しかもここ5年ほどは残高自体が減少している。G7の中で、日本の対外証券投資残高が英独仏より少ないにも関わらず、所得収支黒字が3ケ国を上回る理由は、対内証券投資残高が少なく、外国に支払う配当・金利が少ないためである。

 こうした中、安倍政権の経済政策はプロビジネス的にシフトしている。日本企業の六重苦のうち第1の円高は、日銀の金融緩和により是正された。第2の高すぎる法人税率は、20%台に下げる方向で準備が進んでいる。第3の経済連携協定の遅れに対しては、成長戦略の柱でもあるTPP実現を掲げたが、日米交渉での隔たりがあり、実現時期は見えていない。第4の厳しい労働規制は、解雇ルール明確化などに踏み込めず進展は少ない。第5の厳しい環境規制は、2020年の温室効果ガス排出を1990年比 3%増加との現実的な目標に改めた。第6の高いエネルギーコストに対しては、一部の原発再稼働が年内に実現見込みとなり、少なからずコスト減につながりそうだ。産業の六重苦の解消は道半ばであるといえよう。(第6話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

投稿者:

ジパング・ジャパン

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