エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第31話)

第31話:TPP、なぜ合意見送りになったのか?
 7月、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は合意間近と報道されたが、結局合意は見送りとなった。その要因は、ニュージーランドの乳製品に対する関税への反対、との報道を目にした方も多いだろう。これまで、日米の交渉が焦点になっていたのに、急になぜニュージーランドが合意出来るかどうかを左右するのか? まずはそこから説明したい。

 TPPのメインプレーヤーは、経済規模的に考えても米国と日本である。日本側からすると、いかにアメリカと折り合いをつけるかが最大の焦点になっていた。後述するが、交渉参加国の間で揉めていた項目のほとんどでそれなりに歩み寄りができていた。

 しかし、最後まで米国が反発していた項目がある。新薬のデータ保護期間の短縮である。データ保護期間とは、新薬の製造販売を認められるために提出したデータが知的財産として保護される期間のことで、新薬の特許のようなものである。

 米国は新薬の開発が非常に強い。対して、新興国やニュージーランドを含むオセアニアの国々は新薬開発が強くない。

 開発力が高い米国が新薬の特許をなるべく長く保護したいのに対し、新興国やオセアニアの国々はその特許がなるべく早く切れることを望んでいた。保護期間が長いと似た成分でつくられた後発薬を販売することができず、新しく開発された製品を長い期間、高いお金を払って買い続けなければならないからである。

 そこで、データ保護期間として、ニュージーランドや新興国は5年を提示し、米国は12年を提示した。日本は、間をとって「8年ぐらいでどうか?」と折衷案を提案し、決まりかけていたが、ニュージーランドが「それなら、乳製品の関税をもっと安くしてほしい」と反発してしまった。

 この要求に困ったのは日本とカナダである。

 バターなどの乳製品の品不足にあるはずの日本が、なぜ乳製品の関税維持にこだわるかというと、安価なバターが輸入されると、酪農家が乳製品から牛乳の生産に切り替えるからである。

 そうすると、当然牛乳の供給が増え、牛乳の価格が下がる。結果、牛乳を作っても儲からなくなる……とただでさえ縮小している酪農が縮小する一方になってしまうのである。
 
 輸入ができる乳製品は生産されなくなっても問題ないが、牛乳は鮮度の問題があり、輸入が難しいので、国内の酪農があまりにも縮小すると困る。

 こうしてニュージーランドと日本が歩み寄れず、交渉が停まってしまった。これがことの顛末である。(第32話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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