エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第28話)

第28話:欧州債務危機下のギリシャで起きたこと

 ギリシャでは、2009年10月に、それまでの5年間政権の座にあった新民主主義党が、ヨルゴス・パパンドレウ氏の率いる全ギリシャ社会主義運動に選挙で敗れ、政権交代が起きた。パパンドレウ首相率いる新政権は、旧政権の財政運営について疑念を抱き、調査を実施した。すると案の定、前政権が財政赤字を隠ぺいしていたことが明らかになった。

 それまで、ギリシャの財政赤字はGDPの4%程度と発表されていたが、実際には13%で、公表数字の3倍以上の赤字があった。更に、政府債務残高もGDP比で113%にもなっていることが明らかになった。ギリシャ政府がこのような隠ぺいを行っていた理由の1つに、ユーロ参加国に義務づけられているルールの存在があった。ギリシャも今ではユーロ参加国の1つだが、1999年のユーロ導入段階では参加基準を満たしておらず、参加することができなかった。その後、何とか参加基準を満たし、2001年にようやく晴れてユーロ参加国になれたという経緯があった。実は、ユーロ参加国は安定成長協定というものを結んでおり、「財政赤字額はGDP比3%以内」「政府債務残高はGDP比60%以内」という、財政規律を順守する義務を負わされている。ギリシャが財政赤字の隠ぺいを行ったのは、これらの財政規律の基準値をクリアできているようにみせかけるためだった。

 ギリシャで多額の債務が積み上がってしまった背景には、財政規律の緩さがある。当時のギリシャでは、働いている人の4分の1が公務員だったが、その待遇が非常に恵まれていた。更に年金制度も手厚く、社会保障費が非常にかかる歳出垂れ流しの財政構造になっていた。一方で歳入面では、商店がレシートを発行せず、払うべき税金を払わない等、脱税が横行しており、歳入が長期にわたって低迷していた。

 ギリシャ国債はその多くを外国人の投資家が保有していた。そのため、いったんギリシャの債務隠ぺいが明るみに出ると、一気に投げ売られて、国債価格が暴落した。このため、金利は急上昇し、最高で35%にまで達した。このような金利では、新しく国債を発行することはできない。最終的にギリシャ政府は、2010年4月23日にEUとIMFに正式に支援を要請することになった。IMF等に支援を要請すると、厳しい財政再建策を実施しなくてはいけなくなることになり、緊縮再建策を実施することになった。

 そのうちの1つが、付加価値税の引き上げで、他にも、年金の給付水準も引き下げられ、労働者の4分の1を占める公務員全員の給料も2割削減された。しかし、新たな問題も生じた。このように大ナタを振るった結果、ギリシャ国民の猛反発を招き、国内各地で連日のようにストライキや抗議デモが行われるようになった。政府の掲げる厳しい赤字削減策を簡単に受け入れることができないギリシャ国民は、石や火炎瓶を投げたり、銀行を襲撃したり、暴動が激化して、一時期は社会が混乱の極みに陥った。この間、国外に脱出できる人は国を捨てて海外へと出て行き、その結果、銀行の預金残高も大幅に減った。経済も大混乱に陥り、失業する人が続出した。近年のギリシャの失業率は全体で25%以上、若者だけに限ると約5割が失業しているといわれ、未だ本格回復には至っていない。(第29話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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