エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第27話)

第27話:ピケティ理論は「アベノミクス批判」なのか

 日本の場合、ピケティが想定していなかったデフレによって格差が広がってきた側面も見逃せない。そこに経済のグローバル化が加わり、さらに格差が増幅されてきた。

 ピケティのいう「r>g」のrは資本収益率だが、一般的なマクロ経済学でいうrは長期金利である。rを長期金利とすれば、その金利はマイナスにならない。ところが、経済成長率はデフレになると、いくらでもマイナスになる。これが、デフレになると格差が広がるメカニズムである。

 デフレから脱却することは、gを上げようとしていることになる。デフレはrとgの差を広げ、デフレ脱却はrとgの格差を縮める。

 富の再分配や格差の是正は、これまでも政府の仕事だったが、経済がグローバル化したことによって、さらにその役割が強まっている。

 現在、日本ではアベノミクスと呼ばれる成長戦略が進められている。経済のパイを拡大するという意味では、非常に理にかなった政策を実行している。

 しかし、経済成長によってデフレを脱却しようとすると、そこに必ずひずみが出てくる。光が当たる部分と影になる部分があるため、そこについての再分配がもうひとつの政府の役割である。

 アベノミクスの象徴的なものは円安と株高である。適正な為替の水準は1ドル102円ぐらいであり、異常な円高の是正まではよかったのだが、2014年秋のサプライズ緩和以降は適正レート以上の円安になっている。そこからは円安対策が必要だったのではないか。そこが後手に回っているため、アベノミクスは円安対策を強化していく必要がある。

 ピケティを持ち出して、アベノミクスが格差を拡大すると批判している人たちがいるが、ピケティも経済成長が必要だといっているため、それは間違った解釈をしていることになる。

 ピケティはr>gのgを経済成長あるいは国民所得の成長率という見方をしているが、日本のデータを見ると、経済成長より雇用者報酬の上昇率のほうが低くなっている。したがって、gも国民所得と雇用者報酬に分けて考えなければいけない。

 これは働いているだけでは経済成長に見合った対価が得られない世の中になってきていることを意味している。つまり、資本市場にある程度アクセスしないと経済成長に見合った富は得られないことになる。

 しかし、これだけ株が上がっているのに、日本で株式投資をしている世帯は1割程度しか存在しない。日本が株式投資をアメリカのように4割まで増やすのは難しいが、ヨーロッパ並みの2割ぐらいまでは上げるべきではないだろうか。(第28話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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