エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第26話)

第26話:「r>g」の本当の意味

 2000年代以降、経済のグローバル化が進み、先進国では富裕層と中間層以下の格差が広がってきた。そのきっかけは、東西冷戦の終結だった。

 東西冷戦の時代は、資本主義の国と社会主義の国で生活水準の格差が広がっていた。東西を分断していた垣根がなくなったことによって、先進国からすると安い労働力が使えることになった。先進国はこぞって新興国に工場を作る等、どんどん資本を新興国に移していった。

 一方、新興国は安い労働力を提供できるため、それによって新興国の人々は働く機会を得ることができ、かつ市場経済にアクセスできるようになった。そういう状況では、先進国と新興国の格差が縮小する圧力がかかる。

 先進国と新興国の市場が一体化すると、先進国の国内では格差が広がる。それまで先進国の労働者たちが担ってきた仕事は、新興国の安い賃金の労働者に委ねられるようになる。

 そうすると、先進国の労働者の賃金は下がってしまう。先進国と新興国の格差が縮まる一方、国内の格差が広がるのは、川が上から下に流れるのと同じ動きで、経済のグローバル化のなかでは必然となる。

 経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適なところに最適な立地をする。その際、できるだけ富を稼げる人や企業を引き寄せるような政策が重要性を増してくる。税制面では累進課税を下げ、法人税も下がる方向になる。その結果、富裕層と庶民の格差は広がることになる。

 経済のグローバル化は、金融市場にも様々な影響を与える。このご時世、資金さえあればM&Aで企業を買って、すぐにいろいろな分野に参入することができる。そうなると、マンパワーより株主から資金を調達することがより重要性を増してくる。

 その結果、企業は株主への分配により重きを置くため、人に対する分配の優先順位が低くなる。

 ピケティが危惧しているのは、富裕層に蓄積した資産が更に増えていき、富裕層と中間層以下の格差が更に拡大することである。それを「r>g」の数式で表現している。

 これは資本収益率が経済成長率より大きくなるという意味である。ある意味で資本から得る収入が労働から得られる対価より大きいのは当たり前である。そうでなければ資本家がリスクを負って投資をしなくなってしまう。

 ただし、それによる格差を是正することは必要なので、ピケティが累進所得課税の強化や、世界的な累進資本税の導入を提案していることは大きな意義がある。(第27話に続きます)

永濱 利廣 氏
永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 永濱利廣

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永濱利廣著
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投稿者:

ジパング・ジャパン

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