エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第22話)

第22話:さらなる円安対策が必要

 アベノミクスは円安対策が不十分である。そもそも円安が悪いわけではない。円安になればなるほど企業業績は良くなり、国の税収も増える。日本の経済問題の最終目標が、国の財政の維持可能性を担保することからすれば、税収が増えることは悪いことではない。

 ただし、円安は全ての人にとってプラスではないことが問題である。円安の恩恵を受ける企業で働いている人や投資で儲けている人は、物価の上昇以上に収入が増えている。家計の金融資産は、アベノミクス以降180兆円以上増えている。したがって、日本全体では確実に潤っているのだが、円安の恩恵を受けられない企業に勤めている人は、それほど給料が増えていない。

 企業は円安によってトータルするとプラスだが、大企業と中小企業では大きな差がある。大企業の中で、最も円安の恩恵を受けているのが輸出企業だ。輸出企業の多い上場企業はかなりのプラスになっているが、中小企業は若干のマイナスである。とくに下請企業は、円安による原材料費の高騰とエネルギーコストの増大で、大きな打撃を受けている。円安で大きな利益を出している親会社が、コストアップになかなか応じてくれないことも、下請企業を苦しめているようだ。

 また、都市部と比べて地方のほうが、円安の負担を受けやすいという問題もある。地方では暖房費やガソリン代などのエネルギーを多く使う。円安によってエネルギーコストが高くなると、それだけ負担が増えることになるのである。

 すでに政府は下請企業のコストアップ分を価格に転嫁するように通達を出しており、原材料費のコストアップ分の上乗せは徐々に認められていくだろう。しかしエネルギーコストの負担増をどうやって緩和するのかも考えなければならない。やはり、円安への対策がもう少し必要ではないだろうか。

 日本では、欧米に比べて起業が非常に少ないという点も指摘されている。企業の形態を考えると、アメリカと日本では産業構造に大きな違いがある。アメリカは自由の国で世界中の頭脳が集まっていることもあり、アメリカで上位の企業は目まぐるしく変わっている。ところが、日本の有力な企業は、昔から名の通った企業がずっとその地位に残っている。

 その背景には、優秀な人材が大企業に入ることによって企業の中で業態転換を行い、稼ぎ頭を変えていくことによって日本の企業は生き残ってきたからである。それによって経済が成長していくのであれば、起業が少ないこと自体はそれほど大きな問題ではない。

 ただし、大卒の就職動向を見ると、少し心配な面もある。2014年の日経就職人気ランキングのベスト3は、保険会社が独占した。成長を生み出す企業というよりも、成長を支える企業である。また、公務員を志望する人が多くなっている。若年層は安定志向が強まり、チャレンジ精神のない人が増えているように見受けられる。世界で活躍する企業が増えなければ、日本の将来は明るいものにならない。これで日本は大丈夫なのか危惧せざるを得ない。(第23話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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