エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第21話)

第21話:経済のパイを拡大させる政策は間違っていない

 アベノミクスによって格差社会が拡大するという考えは必ずしも正しくない。アベノミクスによって格差が縮まっている面も多い。

 事実、アベノミクスが始まって、円安、株高、公共事業を強化したことで、雇用者数が100万人以上増えている。非正規雇用が大部分を占めるという指摘もあるが、実際には失業者100万人が働けるようになった。新たに収入を得られる人が100万人以上増えたわけだから、底辺の押し上げにつながっているわけである。

 2013年の雇用者数の増加を見ると、前年比で非正規雇用者が100万人程度増える一方で、正社員が40万人程度減っていた。しかし、直近の2014年の後半以降は、非正規雇用の増加を正社員が上回っている。また、正社員が増加する一方、2015年の春闘では正社員だけではなく非正規社員のベースアップも行われたため、アベノミクスは確実に低所得者層の収入をアップさせていることになる。

 また、アベノミクスが始まって以来、倒産件数は大きく減っている。これに対して、廃業が増えていることが指摘されている。雇用が減っている中で廃業が増えていたら問題だが、雇用全体が増えている中で廃業が増えているということは、産業構造の転換がうまく進んで、企業の新陳代謝が活発になっていることを意味する。このため、廃業が増えていることは、必ずしも悪いことだとは言えない。

 世の中の格差が完全になくなればいいという単純な問題ではない。究極の平等社会は社会主義の国だが、それでは持続的な経済成長は期待できない。経済成長をする中で格差がある程度広がるのはやむを得ないことである。それよりも重要な問題は、低所得者層の生活水準をどの程度まで上げられるかである。事業に成功して裕福になることをアメリカではアメリカンドリームと言うが、日本においても頑張れば報われるという希望があることは非常に重要である。

 競争があることで人々の勤労意欲も強まる。経済のパイを拡大させるためにはそれなりの競争が必要である。全体のパイが拡大しないと再分配もできないため、まず成長ありきで、成長は再分配の必要条件である。パイが縮小すると、最終的には財政危機のリスクが高まる。それを考えると、アベノミクスのまずパイを拡大させるという政策は間違っていない。

 日本は相続税が高いこともあり、海外と比べると格差は大きくない。日本人が農耕民族だったことも影響しているのかもしれないが、お金を貯めたままで亡くなってしまう人が多く、もう少し相続税を強化すれば格差は縮小するはずである。納税者番号制度で将来的に国が銀行口座まで把握するようになれば、それなりに再分配ができるようになるだろう。

 こういったことを総合的に考えると、アベノミクスによって格差が拡大するというのは杞憂である。むしろアベノミクスでビジネス環境を整えて、経済を成長させたほうが理にかなっていることになる。(第22話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
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主席エコノミスト 永濱 利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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