エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第18話)

第18話:非正規雇用の増加の背景

 日本において、富裕層と中間層以下の格差問題よりも騒がれているのが、正規雇用と非正規雇用の格差問題である。かつて企業は単純労働者も正社員として雇用していたが、現在は単純労働者の多くが期間雇用や契約社員という形の非正規雇用となっている。単純労働ではない高度な技術を必要とする職種についても、非正規雇用が広がっている。

 一般的に非正規雇用の時給は、正社員の6割程度と言われており、非正規雇用が増えれば低所得の労働者が増える。非正規雇用の増加と同じようなカーブを描いていることから、その要因は非正規雇用の増加であることは明らかである。

 女性の場合は、非正規雇用の割合が6割弱と非常に高くなっている。ただし、年収100万円以下の労働者は、配偶者控除を受けようとする主婦がパートタイマーとして働いているケースがほとんどであるため、その分は差し引いて考えなければいけない。

 非正規雇用の増加は、経済がグローバル化して以降、その速度が加速している。新興国が台頭してきたことによって、安い労働力が供給されたことが主な要因である。言い換えれば、先進国と新興国の市場が一体化したことによって、企業における経済資源の「人」「物」「金」のうち、相対的に「人」の価値が下がってしまったのである。

 この一方で、介護分野や一部のサービス業など人手不足が深刻な職種も少なくない。いわゆる3Kと言われる仕事で、仕事がきつい割に給料が安いことから、正社員の離職率も非常に高くなっている。こういった分野に人が集まらないのは労働力のミスマッチが原因だと言われるが、それだけではない。また、就職しようとしている若者が最も気にしているブラック企業の存在も見逃すことはできない。こういった企業を離職した人が非正規雇用の道を歩むことも多い。

 また、最近の若者の働き方が多様化していることも指摘されている。正社員として拘束されることを嫌い、趣味や芸術など自分のやりたいことを続けながら、最低限の収入を確保するために非正規雇用を選んでいる人も少なくない。非正規雇用は企業の論理で生まれたものであるが、それをうまく利用して自分の働き方を見つけている人がいることも事実である。しかし、同じ仕事をするならボーナスや退職金をもらうことができ、終身雇用が保証されている正社員になりたいと思っている非正規社員もいるはずである。安倍政権になって導入された地域限定社員の制度には批判的な意見もあるが、そういった人たちの受け皿として機能する可能性も高い。

 もうひとつの問題は、日本では同一労働同一賃金のルールがきちんと定まっていないため、正社員と非正規雇用の賃金格差が大きいことである。欧米は同一労働同一賃金のルールが明確化されている国が多く、基本的に正社員と非正規雇用の時給は同じである。安倍政権の指導によって、一部の企業で非正規雇用のベースアップが実施されたが、まだ十分とは言えない。同一労働同一賃金がルール化されれば、ボーナスや退職金がなくても、正社員と非正規雇用の格差はかなり縮まるはずである。(第19話に続きます)

第一生命経済研究所  主席エコノミスト 永濱 利廣
第一生命経済研究所 
主席エコノミスト 永濱 利廣

さて、このたびエコノミスト永濱氏の書籍が出版されましたので、ご案内させていただきます。書店やネット(下の写真をクリックしてください)でお買い求めいただけます。

永濱利廣著
永濱利廣著

図解 ピケティの「21世紀の資本」
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的に注目を集めました。
しかし、原著(日本語版)は700ページを超え、完全に読みこなすのは難しいものとなっています。
本書では、難解な点を図にまとめたほか、ポイントを絞って原著に忠実に全体を解説しています。
あわせて、ピケティの著書や発言を参考にして、日本における格差問題やアベノミクスの評価について独自の解説を加えています。
800円+税 ()イーストプレス http://www.eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2378

投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください