エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第247話)

第247話:新型肺炎が日本経済に及ぼす影響

 日銀の黒田総裁は、4日の参院予算委員会で新型肺炎による日本経済への影響がSARSの時よりも大きくなる可能性を指摘した。

 単純に比較すれば、震源地である中国経済への影響が大きくなることが想定されるが、そう単純には比較できないだろう。というのも、日・中の製造業PMIを比較すると、中国は昨秋から情報関連財の在庫調整終了や5G関連の堅調な需要等により拡大に転じていたのに対し、日本は消費増税や台風の影響などもあり、悪化が続いている。このため、回復の頭を抑えられる中国よりも、悪化が増幅される日本の方がタイミングが悪かったといえよう

 内閣府の景気動向指数に基づけば、日本経済はすでに2018年11月から景気後退に入っている可能性があり、当初は中国経済にけん引されて循環的に日本経済も底打ちする可能性があった。従って、新型コロナウィルスによりそれが後ずれする可能性があるといえよう。

 さらに、これから本格化する春闘への影響も心配される。2020年度は新型コロナウィルスの影響がなくても、4月から中小企業に残業規制が導入されることや、大企業で同一労働同一賃金制度が導入されること等により、正社員を中心に賃金が上がりくいことが予想される。したがって、今回の新型コロナウィルスがさらに賃金の下押し圧力になる可能性もあろう。

 今回の「新型コロナウィルス」は中国の春節の時期に拡大したため、日本の中国人観光客が激減した。特に、中国の旅行会社が団体旅行を当面中止した1月27日の時点で日本旅行業協会が調べたところ、1月27日から3月末までに団体旅行で来日する予定だった中国人向けに日本の旅行会社が「身元保証書」の申請を受けたのはおよそ40万人分に上り、これらの旅行のほぼすべてがキャンセルになる可能性があるとのことである。

 仮にこれが現実となれば、中国人観光客の平均消費額は2019年10-12月期時点で21.1万円(観光庁)だったことからすると、それだけで▲800億円以上のインバウンド消費が失われることになる。

 SARSの時は3月末から感染が拡大し、7月に終息宣言となった。このため、これらはSARS同様の前提では今年5月にも新型コロナの終息宣言が出ることが期待される。しかし、訪日中国人観光客が毎年夏場に最も盛り上がることもあり、仮に夏に控える東京五輪まで長引くことになると、その影響はさらに甚大なものになるだろう。

 このように、今回の新型コロナウィルスの影響で中国を中心としたインバウンドが日本経済を下支えしている実態が浮き彫りになったが、そもそもインバウンドに頼らざるを得ない日本経済の長期停滞が問題である。日銀の若田部副総裁は、リスクが大きくなって物価上昇の勢いが失われる恐れが高まれば、躊躇なく追加緩和する旨発言しているが、金融政策のみでは限界に近付いていることも確かである。このため政府は、感染拡大を一刻も早く食い止めると同時に、大胆なワイズスペンディングで少なくとも経済活動が正常化するような経済環境に戻すことが最優先といえよう。(第248話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

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