エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第209話)

第209話:15歳以上人口平均賃金はアベノミクス以降+6%上昇

 実際の景気を実感するのは、新たに職についた就業者であり、職を失った失業者であろう。従って、既に働いている従業員ではなく、労働力とされる15歳以上の一人一人の人口に着目し、15歳以上人口一人当たりの賃金が計測できれば、より人々の実感に近い実質賃金となる。

 特に、家計全体の購買力を判断するには「総賃金」が重要であり、非労働力人口と失業者の景況感に大差が無いと仮定すれば、総賃金を15歳以上の人口で割って計測される一人当たり賃金がより景気実感に近いものと思われる。働いていない人も含めれば、その人が収入を得ることがプラスに作用する。これを、夫が月収50万円の片働きから妻が月収10万円の共働きに変わった家庭に例えれば、既存の一人当たり賃金の計算では50万円から(50+10)/2=30万円に下がることになるが、15歳以上人口一人当たりの賃金では50/2=25万円から30万円に上昇することになる。従って、働いていない人も含めた一人当たり賃金を計測することは非常に重要といえよう。

 そこで、実際に15歳以上人口一人当たりの実質賃金を計測してみた。総人件費を労働者数で割って作られた既存の実質賃金、総人件費を15歳以上人口で割って作成した修正版実質賃金を作成し、アベノミクス以降をこの二つの基準で見てみると、既存の実質賃金で見れば確かにアベノミクス以前よりも水準を下げていることになるが、15歳以上人口当たりの修正版実質賃金は2015年以降上昇に転じていることがわかる。これは、新たに職についた労働者の収入増を加味すれば、平均的な労働者の実質的な購買力が上がっていることを意味している。

 また前年比で見れば、確かに既存の実質賃金も前年比でプラスになった年もあるが、修正版実質賃金は2015年以降持続的に増加していることがわかる。そして何より、既存と修正版の実質賃金の格差が拡大していることが重要だ。つまり、15歳以上人口で計った修正版実質賃金は明確に増加しており、既存の労働者ベースの実質賃金の動きのみで判断すると、人々の実質購買力を過小評価してしまうことになる。

 このように、実質賃金が従業員の景気実感を反映しない背景には、マクロ経済的にプラスとされる常用雇用者数の増加が実質賃金の下押しに作用してしまうことがある。こうしたマクロ経済全体を表さない経済指標を基に経済状況を判断しようとすると、経済政策の判断を誤る可能性があり、多くの国民が経済成長の恩恵を受けられなくなる可能性がある。常用雇用が増加する局面での実質賃金低下に左右されること無く、総賃金を持続的に増加させ、家計全体の購買力を高める政策が必要だ。(210話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

さてこの度、永濱氏の書籍が出版となりましたので、ご案内させていただきます。何卒よろしくお願いします。

『エコノミストの父が子どもたちにこれだけは教えておきたい大切なお金の話』~自分の息子と娘のために語り下ろす「お金」の教科書~


〇教育現場でも中高生から経済学や投資の基礎知識などを教えるべき、という声が広がっているが、それ以前にもっと身近な「お金とのつきあいかた」を知るべきではないか、という思いを込めた1冊。

〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

〇お金で不幸にならないために、お金で人を不幸にしないために、父親としての願いをまとめた一冊。

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投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

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