エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第170話)

第170話:緊縮財政が経済に及ぼす影響

 財政健全化に対する取り組みは重要だが、景気への最大の配慮が必要である。まず指摘しておきたいのは、財政健全化は当初の想定以上に進んでいるということである。背景には、当初の想定ほどは社会保障の給付費が増えていないことがある。

 実際、2012年3月に厚生労働省が策定した社会保障にかかわる費用の将来推計によると、2015年度時点の給付費は119.8兆円の見通しだったが、実績はそこから4.9兆円も下ブレしており、名目GDP比で見ると大きく低下に転じている。更に、既に2016年度の実績が公表されている概算医療費を見ると、一連の政策効果もあり、減少に転じている。

 こうした社会保障効率化の成果に対して、2022年から団塊世代が後期高齢者入りするため、社会保障費の膨張が懸念され、更なる社会保障効率化の加速が必要とする向きもある。確かに、団塊世代が後期高齢者入りすれば、年金の自己負担率の低下や医療費の増加等が社会保障の膨張要因となろう。

 しかし、それらを加味した社会保障にかかわる費用の将来推計を見ても、給付費の見通しは2015~2020年の増加幅+14.6兆円に対して、2020~2025年の増加幅は+14.5兆円とやや縮小している。この背景には、2020年代以降はシニア人口の増加率が低下し、給付費が伸びにくくなることがある。

 特に、2014年4月の消費税率引き上げには多くの示唆がある。注目すべき点は、近年に個人消費が大きく調整されたのはリーマンショック、東日本大震災、消費税率引き上げの3回あるが、リーマンショックは2年後、東日本大震災は1年後に個人消費が元のすう勢に戻った。

 にもかかわらず、2014年4月の消費増税では元に戻るのに3年かかり、その後の家計消費のすう勢も下方屈折してしまっていることからすると、いかに社会保障の効率化が進む中で消費税率引き上げの影響が大きかったかがわかる。これは重要なポイントである。

 また、日本経済はすでに完全雇用の状況にあり、需要刺激策は必要ないという指摘がある。実際に、内閣府や日銀が公表しているGDPギャップを見ると、いずれもプラスとなっており、日本経済が完全雇用の状況にあることを示している。

 しかし、そのわりには日本の物価や賃金の上昇圧力が乏しい状況にある。背景には、政府や日銀のGDPギャップの計測が誤っている可能性がある。実際にIMFのGDPギャップを見ると、日本は依然としてマイナスであり、完全雇用に至っていないことを示している。なお、政府や日銀のGDPギャップが過大評価されている背景としては、非自発的失業が存在しない完全雇用失業率の水準が近年低下していることが反映されていない可能性が指摘できる。(第171話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

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