エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第143話)

第143話:家計支出が低迷する理由

 個人消費が順調に拡大することによって、景気は自律的に拡大し、安定した経済成長を実現することができる。しかし、誰が見ても日本の個人消費が低迷を続けていることは明らかである。しかも、日本のGDPの少なくとも6割弱は個人消費が占めており、最大の項目になっている。GDPの7割以上を個人消費が占める米国と比べれば、日本では個人消費が経済に与える影響は大きくないかもしれない。しかしGDPの最大項目ということは、日本経済を見る上で個人消費が最も注目度の高い需要項目の一つであることを意味している。

 ここで、これまでの我が国の個人消費を振り返ってみよう。GDPの個人消費は単純に金額を集計した名目値のほかに物価の変動分を調整した実質値があり、どちらを見るかで印象は異なるが、ここでは単純に名目個人消費の変化率を見る。80年代に年平均+6%の拡大をしていた個人消費は、90年代以降は年平均+1%台に低下した。これは、いわゆるバブル崩壊の影響によるものだが、それでも先行きの安定的な所得増加が期待されていたことから、90年代半ばまでの個人消費は安定的に増加し、景気を下支えしてきた。この背景には、終身雇用・年功賃金という日本的な雇用慣行があった。

 ところが、90年代後半から個人消費の拡大テンポは大きく鈍化し、98年には統計開始以来始めてマイナスに転じた。97年末に企業の大型倒産が相次ぎ、企業の大規模なリストラが断行されたためである。安定した雇用慣行が崩れ、家計の所得の伸びが鈍るという状況に直面すれば、家計が消費を減らすのも当然の成り行きと考えられる。つまり、家計の雇用・所得環境の将来の不確実性が高まったことが原因といえる。

 可処分所得の伸びが低下すれば、個人消費の伸びも低下することになる。なぜなら、可処分所得というのは、額面の収入から税金や社会保障費を除いた手取りの収入の合計で、家計が自由に使えるお金の基準となるからである。また、家計の額面収入は就業する企業の業績に左右されることから、企業業績が変動すると世の中の個人消費も影響を受ける。

 以上より、個人消費の動向は雇用と所得環境で決まることがわかる。また、先行きについても安定的な雇用や所得の増加が予想されれば個人消費は増える。このため、家計の可処分所得が増えると、個人消費も増えることになる。逆に言うと、可処分所得が減ると個人消費も減ることになる。つまり、家計の可処分所得と個人消費は正の相関関係にある。

 このように、家計の可処分所得が増加すれば、個人消費が増えやすくなることは理解しやすいだろう。しかし、同時に重視すべき問題は、将来の社会保障のための行き過ぎた消費増税や社会保障の効率化も消費を抑制するということである。(第144話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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〇「クレジットカードの仕組み」「なぜカンタンにお金が借りられる?」「友だちとのお金の貸し借り」「ものの値段の決まり方」「バイト代や給料の仕組み」「お金がなくなったときどうすればいいのか」「お金を増やすことはできるのか」「無料はほんとうに得なのか?」「君たちもすでに税金を払っている」「修学旅行や部活にだって保険はある」など、中高生の日常に身近なことから「お金とのつきあいかた」を教える。

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投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

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