エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第130話)

第130話:必要となる金融政策との合わせ技

 欧米諸国で90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服した中では、緩和的な金融政策も財政再建の鍵を握った。緊縮財政は歳出削減や増税により何がしかの景気下押しを伴う。そこで中央銀行が金融を緩和すれば、緊縮財政過程における景気下押し圧力を軽減することができる。中央銀行はまさに「政府のサポート役」となった。

 そうした景気下押し圧力を緩和したメカニズムとして、「インフレ目標」政策を採用したことで長期金利の上昇が抑制されたといわれている。この「インフレ目標」政策は、先進国で採用されている一般的な金融政策の枠組みであり、日本でも金融政策の核になっている。

 実際、90年代からインフレ目標政策を採用した国では経済成長率が高まる一方で、インフレ率低下が財政健全化にも大きく貢献している。仮にインフレ目標を導入していなければ、長期金利が景気の実勢以上に上昇し、それに伴う設備投資の下振れを通じて、経済成長率が押し下げられた可能性がある。従って日本でも、金融政策による金利や為替、資産価格等への働きかけを通じて、財政再建に導く経路が重要となる。しかし、我が国では15年以上にもわたってデフレ対策が不徹底であり、残念ながら金融政策が十分機能してこなかった。こうしたところに日本の停滞の大きな原因が潜んでおり、日本の財政に悪循環をもたらしてきたといえる。

 そして、名目成長率から長期金利を引いた差が政府の超過収益率、平易に言うと借金減らしに使えるお金である。つまり、名目成長率が高まれば税収、つまり政府が借金減らしに使うお金が増える。一方、長期金利が低下すれば、政府が利払い費に回すお金が減ることになる。従って、政府債務残高/GDPの上昇を食い止めるには、景気と金利に影響を与えることができる金融政策が鍵を握る。

 このように、緊縮財政や財政出動による効果は金融政策によって大きく異なるが、この関係はマクロ経済学の教科書で「マンデル=フレミング効果」と呼ばれている。これは、金融政策が不変の下で財政出動が行われれば、金利上昇を通じて自国通貨が増価し、設備投資や外需の抑制を通じて財政出動の効果が減殺されてしまう効果のことを示す。つまり、お金を使おうとしない民間からお金を借りて政府が使えば、国債発行が増える。国債発行が増えれば金利が上がり自国通貨が増価する。そうすると、外需が減ってGDPがさらに減って…財政政策の効果が相殺されるメカニズムが「マンデル=フレミング効果」である。

 ただし、今般の我が国のように、本格的なデフレ脱却のための財政出動を決断しなければならない場合には、同時に金融緩和策も行われることが多く、金融緩和により金利上昇や自国通貨の増価を抑制できれば、結果として、財政出動の効果が高まることにつながる。これが「マンデル=フレミング効果」の本当の意味である。(第131話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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