エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第126話)

第126話:夏の日照時間一割減で個人消費▲0.4%減

 国民経済計算のデータを用いて気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計すると、7-9月期の日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。そして、過去の関係からすれば、7-9月期の日照時間が▲10%減少すると、同時期の家計消費支出が▲0.4%程度押し下げられる計算になる。

 そこで、今夏の天候が景気に及ぼす影響を試算すれば、7月は東京・大阪平均の日照時間が平年より16.5%多かったことから、同時期の家計消費を+0.6%(+1,236億円)押し上げた計算になる。しかし、すでに8月前半の東日本の日照時間が平年より6割程度少なかったことからすれば、仮に8月を通して東日本の日照時間が平年よりも6割少なくなったとすれば、8月の家計消費は▲1.2%(▲2,244億円)程度押し下げられ、7月のプラス分の二倍近くの悪影響が出ると試算される。

 更に心配されるのが消費者心理の悪化だ。というのも、今夏の状況は2003年に酷似している。当時の消費者態度指数を見ると、不良債権問題に伴う株安にイラク戦争の影響が重なり、全国の消費者心理が低下した。また93年には、景気動向指数の一致DIが改善したことを根拠に政府が6月に景気底入れを宣言したが、円高やエルニーニョ現象が引き起こした長雨・冷夏等の悪影響により、景気底入れ宣言を取り下げざるを得なくなったという経緯がある。

 直近4-6月期には、北朝鮮情勢や生活品の値上げ等により消費者心理は既に悪化している。ここに今回は、北朝鮮情勢に伴う円高・株安に加え、猛暑から一転して日照不足が重なった。こうしたことを考えれば、今年7-9月期の経済成長率は消費者心理の更なる悪化によって下押しされる可能性は無視できない。景気の先行きをめぐっては個人消費の動向も不透明要因として浮上しており、北朝鮮情勢やマーケットの動向と合わせて慎重に見極める必要がある。

 また、冷夏による日照不足は、農作物の生育を阻害して冷害ももたらす。実際、93年は冷夏の影響により農作物に甚大な被害が発生し、とりわけ米の作況指数は全国平均で74(平年作=100)と戦後最低を記録した。この結果、93年度の農業所得は前年度比▲9.7%と大きく減少し、93年の農業の実質国内総生産は前年比▲11.0%と2桁減を記録している。

 そこで、7-9月期の気温の前年差とその年の名目農業生産額の前年比の関係から、夏場の気温が農業生産に及ぼす影響を試算してみた。これによれば、農業生産額と気温の間には、7-9月期の気温が1℃下がる毎にその年の農業生産額が▲2.0%減少するという関係が見られる。農業生産額が直近の2015年で4.7兆円であることを用いれば、7‐9月期の気温が1℃下がる毎にその年の農業生産額は▲2.0%×4.7兆円=▲931億円減少することになる。

 今後の冷夏の影響を見通す上では、夏物商品消費の不振に加えて、農作物の不作を通じた影響が秋口以降にボディーブローのように効いてくることには注意が必要であろう。(第127話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

エコノミスト永濱氏の新刊も是非お読みください。
60分でわかる「マイナス金利」
第一生命経済研究所
首席エコノミスト:永濱利廣(監修)

mainasu2016年1月29日に日銀の金融政策決定会合で決定され、2月16日から実施された「マイナス金利」。

プラスであることが当たり前の金利がマイナスになるとは、いったいどういうことなのか?

日本の経済を再生する原動力となるのか?

そして、私たちの生活にどのように関係するのか?

誰もが疑問に思うことを、Q&A方式を用いて簡潔に解説していきます。
(ご購入はお近くの書店か本の表紙をクリックしてください。)

投稿者:

ジパング・ジャパン

「にっぽん」を世界へ、情報発信していく会社です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください