エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第122話)

第122話:完全雇用、人手不足の現実

 2017年2月以降、日本の完全失業率は3%を下回っており、1993年末に記録した2.8%まで低下してきている。また、有効求人倍率も1990年7月に記録したピークを更新している。

 企業の人手不足感も深刻である。2017年3月調査の日銀短観によれば、全規模全産業の雇用人員判断DIは1992年3月調査以来25年ぶりの人手不足感を強めており、先行きも更に人手不足感が強まると見られている。

 この背景には、2012年12月から2017年4月まで380万人以上の生産年齢人口が減少しているにもかかわらず、同時期に就業者数が260万人近く、雇用者数に限れば290万人以上も増えていることがある。そして、近年の就業者数が日経平均株価やドル円レートに遅れて変動していることからすれば、国内の雇用機会の増加は、大胆な金融緩和に伴う極端な円高・株安の是正に伴い生じていると推察される。

 極端な円高・株安が是正されると仕事が増える背景には、まず円安に伴い国内で生み出されたモノが相対的に割安になることがある。このため、輸出関連産業では製品の競争力が増して販売量が増えることで人手が必要になる。また、輸入代替産業においても競合する輸入品の価格が上がることや、株高で購買力が上がるため、国産品の需要が高まり雇用が必要となる。更には、国内のサービスも価格面から競争力を増すことや株高で購買力が上がる。このため、外国人観光客の増加等も含めてサービス産業への需要も高まっているため、雇用が生み出されていることが指摘できる。

しかし、労働需給がひっ迫している割には、一人当たり賃金の上昇率は伸び悩んでいる。実際、厚生労働省の毎月勤労統計を用いて、所定内給与の前年比を要因分解すると、2015年から一般労働者の賃金上昇とパート比率上昇ペースの鈍化を主因に上昇に転じているが、その上昇率は平均すると前年比+0.3%程度にとどまっている。一方、年次データであるがサンプルが多く、賃金統計で最も信頼性が高いとされる厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、2014年、2015年とも一般労働者の所定内給与は前年比で+1%を大きく超える伸びを示している。しかし、同統計でも2016年は横ばいに止まっており、賃金が上がりにくい構図に変わりはない。

 そもそもマクロ経済学上には「完全雇用」という概念があり、経済全体で非自発的な失業者が存在しない状態を示すとされている。そして、その状態における失業率を下回ると賃金上昇率が加速するということで「完全雇用失業率」と呼ばれている。従って、我が国でも非自発的失業者が存在しない失業率の水準が完全雇用失業率の目安となる。そこで、総務省「労働力調査」を用いて非自発的離職が存在しない場合の失業率を求めると、2010年頃までは3%程度で安定していたが、2017 年以降は2.1%まで下がっている。従って、完全雇用失業率の水準自体がここ7年で1%近く下がっており、賃金上昇率が加速するまで労働需給がひっ迫していない可能性が指摘できる。(第123話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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