エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第119話)

第119話:実は増えてなかった2016年の一般労働者の所定内給与

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、2016年の一般労働者の所定内給与は前年比横ばいにとどまった。

 これを性・年齢階級別にみると、45~54歳男性と60代女性の賃金が下落していることがわかる。労働者数のボリュームを勘案すれば、40代後半~50代前半の男性が最大の賃金押し下げ要因となっていることが推察される。背景には、バブル期前後の売り手市場で大量採用された世代であるがゆえに、昇進率の低下等により平均賃金が下がっている可能性が高い。

 また、学歴別にみると、中高学歴(大学・大学院卒や高専・短大卒)の中高年男性の賃金が押下げに効いていることがわかる。こうしたことから、学歴による賃金格差が縮小する傾向にあることが読み取れるが、相対的に人手不足感が低いホワイトカラーの賃金が上がりにくくなっていることを示唆している。

 一方、企業規模別にみると、大企業の男性賃金のみが全体を押し下げていることがわかる。これは、企業規模による賃金格差が縮小傾向にあることを意味し、相対的に人手不足感が強い中小企業の賃金が上がりやすくなっている可能性が高い。

 さらに雇用形態別にみると、45~54歳男性、60代前半男性、60代女性それぞれの正社員の賃金が全体を押し下げていることがわかる。これも、正社員と非正社員の賃金格差が縮小傾向にあることを意味するが、60代正社員については定年延長等による賃金低下が響いていることが示唆される。

 以上より、賃金上昇の足を引っ張っているのは45~54歳の大企業男性正社員であると考えられ、この世帯は消費支出額も大きいため、個人消費低迷の一因になっていると考えられる。この世代はバブル期の大量採用で出世率が低いことに加え、人手不足感が相対的に低いため、賃金が上がりにくくなっている可能性が高い。一方で、高卒・中小企業・非正社員の賃金がそれぞれキャッチアップ過程にあることからすれば、生産性に見合った賃金への調整過程にあるともいえよう。他方、シニアの賃金も平均賃金の足を引っ張っているが、これはむしろ労働力率上昇を通じて人手不足緩和に貢献している可能性があり、総賃金でみれば増加要因と前向きにとらえることができる。

 こうして見ると結局、日本で平均賃金の上昇を阻んでいるのは、人手不足感が低い企業や職種から人手不足感の高い企業や職種に人材が異動するような労働市場の流動化が乏しいことも一因と推察される。特に最も賃金上昇の足を引っ張っている45~54歳の大企業男性正社員の労働市場の流動化を阻んでいる背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金等の面で恩恵を受けやすくなる日本的雇用慣行があると考えられる。

 従って、日本の個人消費を本格的に回復させるために必要な恒常所得を引き上げるためには、正社員の解雇ルールの明確化や職業訓練なども含めた転職支援の充実が必要となってこよう。(第120話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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