エコノミスト永濱利廣の経済コラム (第100話)

第100話:財政リスクは2020年に顕在化の可能性

 2020年はオリンピックの開催だけでなく、プライマリーバランスを黒字化させるという、国が掲げている大きな目標を達成させる期限の年でもある。内閣府では、ベースラインケースと、経済再生ケースという2つのシナリオを使って将来の基礎的財政収支を計算している。ベースラインケースでは、名目経済成長率を1%台前半、経済再生ケースでは3%台後半で計算している。しかし、見通しでは3%台後半の名目経済成長を繰り返しても、2020年までにはプライマリーバランスはプラスにはならない。

 これには、ひとつからくりがあり、今紹介した内閣府の試算では税収弾性値が極端に低く見積もられていることがある。税収弾性値というのは、名目GDPが1%増えると、税収が何%増えるかを示すもので、政府の試算では1%程度とされている。しかし、例えば2015年度の場合、日本での税収弾性値は1.5%であったため、内閣府の試算は少し厳しすぎる。ただし、税収弾性値を適正なものにしても、2020年のプライマリーバランスの黒字化が厳しいことには変わりない。

 その最大の理由は、膨張し続ける社会保障費である。日本の社会保障費は少子高齢化の影響で、2012年から2025年の13年の間に約39兆円増えると見込まれている。そのうち半分を占める医療費を中心にした社会保障の効率化は避けて通ることができない。

 そのため、納税者番号制度を利用し、国民一人ひとりの所得、将来的には資産状況を把握し、経済的に余裕のある高齢者には応分の負担を求めていく方向に制度を変更することになると見込まれている。

 この制度の変更は、国民の痛みを伴い、反対の声が上がることが必至で、すんなりと実現できるか、極めて疑わしいと言わざるをえない。しかし、先程も説明したように、社会保障の効率化は2020年プライマリーバランス黒字化のためには欠くことができない。

 このように、2020年のプライマリーバランスの黒字化は余談を許さない状態にある。しかし、一方で、日本国債の金利は低位で安定している。その理由の一つが日銀自ら国債を大量に購入していることである。改めていうまでもないが、日銀による国債保有額を永遠に増やし続けることはできないため、いずれは日銀も量的緩和を終了させて、「出口」に向かわなければならない。もし、日銀が出口に向かっているタイミングで2020年のプライマリーバランスの黒字化ができないことが判明したら、金利が跳ね上がってしまうリスクが全くないとは言えない。

 つまり、そもそも経済成長率が停滞しやすい五輪が終わる時期と、世界中が注目しているプライマリーバランスの黒字化に答えがでるタイミングがちょうど重なる可能性が高いため、もし社会保障改革が上手く進まなかった場合は、2020年台後半の日本経済には暗雲が立ち込めてしまう可能性があることには注意が必要だ。(第101話に続きます)

永濱 利廣 氏

第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
永濱利廣

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投稿者:

ジパング・ジャパン

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